アッコの旧市街とは
アッコ(アッカ)は、イスラエルの地中海沿岸北部に位置する歴史的な港湾都市です。古代フェニキア時代から続く長い歴史を持ち、異なる時代の都市遺跡が重層的に保存されている点が特徴です。その類まれな歴史的価値から、2001年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。
地上に見えるのはオスマン帝国時代の城壁やモスク、市場(バザール)が広がる典型的なイスラム都市の姿ですが、その地下には十字軍時代の街並みがほぼ完全な形で眠っており、訪れる人々に歴史の深さを体感させてくれます。
歴史の重層都市
アッコの最大の特徴は、その歴史の重層構造にあります。18世紀から19世紀にかけて築かれたオスマン帝国時代の都市は、12世紀から13世紀の十字軍時代の都市の遺構の上に直接建てられました。そのため、地下を訪れると、十字軍の騎士団が使用した広大なホール、食堂、トンネルなどが驚くほど良好な状態で保存されているのを見ることができます。このように、異なる時代の都市が一体となって現存する例は世界でも非常に稀です。
世界遺産としての価値
アッコの旧市街は、以下の3つの登録基準を満たしたことで世界遺産に登録されました。
- 登録基準(ii): 十字軍によって計画・建設された都市計画と、それを改変しつつ利用したオスマン帝国時代の要塞都市の姿は、ヨーロッパとアラブの文化や建築様式が交流した顕著な物証です。
- 登録基準(iii): 地上に残るオスマン時代の街と、その地下に眠る十字軍国家「エルサレム王国」の首都の遺跡は、今は失われた文明のあり方を伝える他に類を見ない証拠と評価されています。
- 登録基準(v): 城塞、モスク、隊商宿(ハーン)、公衆浴場(ハンマーム)といった施設が一体となったオスマン帝国時代の城郭都市の優れた典型例です。
主な見どころ
アッコの旧市街には、その重層的な歴史を物語る数多くの建築遺構が残されています。
| 建築遺構 | 説明 |
|---|---|
| 十字軍の要塞(騎士団の広間) | 聖ヨハネ騎士団によって築かれた広大な地下施設群。食堂や集会所、倉庫などがほぼ完全な形で残っています。 |
| ハーン・アル=ウムダーン(隊商宿) | オスマン帝国時代に隊商の宿泊・交易施設として利用されたキャラバンサライ。花崗岩の柱の列が特徴的です。 |
| アフマド・アル=ジャッザール・モスク | 18世紀末にオスマン帝国の総督によって建てられた美しいモスク。緑色のドームとミナレットが街の象徴となっています。 |
| テンプル騎士団のトンネル | かつてテンプル騎士団の要塞と港を結んでいた地下トンネル。現在は観光客に公開されています。 |
保全と観光
アッコの旧市街は、貴重な歴史遺産を未来へ継承するため、イスラエル考古学庁や地方自治体によって厳格な保全活動が進められています。発掘調査は今も続けられており、新たな発見が続いています。一方で、歴史的な街並みは現在も市民の生活の場であり、観光客は歴史と現代の生活が共存する独特の雰囲気を味わうことができます。持続可能な観光を通じて、遺産の保護と地域社会の発展の両立が目指されています。
参考情報: ユネスコ世界遺産センター(アッコ旧市街)