ヒロキティアの考古遺跡とは
ヒロキティア(キロキティア)は、キプロス島南部のマリ川の谷を見下ろす丘にある、非常に保存状態の良い新石器時代の集落遺跡です。紀元前7000年から紀元前4000年頃にかけて栄えたこの集落は、地中海東部地域における人類の定住生活の始まりと、社会の組織化を理解する上で極めて重要な証拠を提供しています。円形の石造りの住居が密集して建てられているのが大きな特徴で、当時の建築技術や生活様式を今に伝えています。その卓越した価値から、1998年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。
登録基準
ヒロキティアの考古遺跡は、以下の3つの基準を満たしたと評価されています。
- (ii) 建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた。ヒロキティアの建築様式や集落の構造は、先史時代の建築と都市計画の発展における重要な段階を示しています。
- (iii) 現存しない文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。この遺跡は、新石器時代初期の文化を伝える、地中海地域で最も重要な遺跡の一つです。
- (iv) あるひとつの時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積、または景観の顕著な見本。防御壁に囲まれた組織化された集落は、原始的な農耕社会の顕著な例です。
遺産の価値
ヒロキティアの価値は、その考古学的な重要性にあります。
- 考古学的価値: 土器が使用される以前の「無土器新石器時代」の集落であり、当時の社会構造、経済活動、葬送儀礼などを解明する上で一級の資料です。集落が防御壁で囲まれていることから、共同体としての強い結束があったことがうかがえます。
- 文化的価値: 発掘された石器、骨角器、石の容器などから、当時の人々の高い技術力と生活様式を知ることができます。また、住居の床下から見つかった人骨は、死者を身近に埋葬する独特の死生観があったことを示唆しています。
遺産の概要
地理と気候
キプロス南部の丘陵地帯に位置し、地中海性気候に属しています。遺跡からは周囲の谷や遠くの海を望むことができます。
主要な遺構と出土品
遺跡の中心は、計画的に配置された円形の住居群です。
- 円形住居(トロス): 直径2mから9mほどの石灰岩で造られた円形の基礎を持つ住居跡。内部には炉やベンチ、遺体を埋葬した穴などが見つかっています。屋根は平らな、あるいはドーム状の木造であったと推測されています。
- 防御壁: 集落を外敵から守るための厚い石積みの壁。集落の入り口には、より複雑な構造の門があったと考えられています。
- 出土品: 黒曜石や火打石で作られた石器、動物の骨で作られた道具や装飾品、精巧な石製の容器などが多数出土しています。
観光と保全
遺跡のそばには、発掘調査に基づいて復元された円形住居が建てられており、観光客は当時の生活をより具体的にイメージすることができます。遺跡の風化を防ぐため、特に重要な遺構には保護用の屋根が設置されるなど、慎重な保存活動が行われています。