アラビアオリックスの保護区とは
アラビアオリックスの保護区は、オマーン中央部の砂漠地帯に位置した自然保護区です。かつて野生では絶滅したアラビアオリックスを再導入し、その保護を目的として設立されました。1994年に世界自然遺産に登録されましたが、オマーン政府による保護区の大幅な縮小と密猟の横行により、2007年に世界遺産リストから抹消されました。これは、世界遺産リストから初めて削除された物件です。
世界遺産登録と抹消の経緯
この保護区は、絶滅の危機に瀕した生物種の生息地として、また生物多様性を保全する上で極めて重要な地域であることが評価され、登録基準(x)を満たすものとして1994年に世界遺産に登録されました。ここでの保護活動は、一度野生で絶滅した動物を再び自然に帰すという画期的な試みでした。
しかし、2007年、オマーン政府が石油と天然ガスの探査を優先するため、保護区の面積を90%削減することを決定しました。これにより、アラビアオリックスの生息環境が著しく悪化し、密猟が横行した結果、その個体数は激減しました。この措置は、世界遺産としての「顕著で普遍的な価値」を維持できなくなったと判断され、ユネスコは世界遺産リストからの登録抹消を決定しました。
遺産の価値と主要な動植物
この保護区の最大の価値は、アラビアオリックスの野生復帰計画の中心地であった点にあります。アラビアオリックスは、その美しい姿から「アラビアのユニコーン」とも呼ばれる動物です。保護区は、この象徴的な種を絶滅から救うための最後の砦でした。他にも、アラビアガゼルやヌビアアイベックス、大型の渡り鳥であるノガンなど、乾燥地帯に適応した貴重な野生生物の生息地となっていました。
地理と自然環境
保護区は、アラビア半島特有の広大な砂漠と岩がちな丘陵地帯に広がっていました。年間を通じて極端に乾燥し、昼夜の寒暖差が激しい過酷な環境ですが、こうした気候に適応した独特の生態系が形成されていました。
抹消が残した教訓
アラビアオリックスの保護区の登録抹消は、自然保護と国家の経済開発との間で生じる深刻な対立を象徴する出来事となりました。世界遺産といえども、当事国の政策決定によってその価値が失われる危険性があることを国際社会に示し、今後の遺産保護のあり方について重要な教訓を残しています。
参考文献
- UNESCO World Heritage Centre. “Arabian Oryx Sanctuary”. https://whc.unesco.org/en/list/654