概要
エルチェの椰子園は、スペイン南東部バレンシア州エルチェ市に広がる大規模なナツメヤシの農園です。2000年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。その起源は10世紀末、イベリア半島を支配していたイスラム教徒が故郷の北アフリカや中東のオアシス農法をこの地に導入したことに始まります。ヨーロッパに現存する唯一の大規模な椰子園であり、イスラム文化がヨーロッパの農業景観にもたらした影響を伝える貴重な遺産です。
歴史と灌漑システム
この椰子園の最大の特徴は、乾燥した土地でナツメヤシを栽培するために開発された高度な灌漑システムにあります。イスラム教徒たちは、ビナロポ川から水を引き、網の目のような水路網を張り巡らせることで、各区画に水を公平に分配する仕組みを構築しました。この伝統的な灌漑システムは、13世紀のレコンキスタ(国土回復運動)の後も維持され、改良が加えられながら現在まで機能し続けています。
文化的景観としての価値
エルチェの椰子園は、単なる農地ではなく、独特の文化的景観を形成しています。椰子の木は直線的に植えられ、四角い区画(Huerto)に分けられています。これにより、日陰を作り出して地面の水分蒸発を防ぎ、内部では野菜や果樹などの他の作物を栽培することが可能になっています。この農法は、砂漠地帯のオアシス農業の知恵を応用したもので、持続可能な土地利用の優れた例とされています。
世界遺産登録基準
- (ii) 北アフリカから伝わった景観と農業実践がヨーロッパの地に根付き、文化の伝播と交流を物語る類まれな証拠である。
- (v) イスラム時代に確立され、現在まで生き続けている灌漑システムと農業景観は、厳しい環境における人間の相互作用を示す伝統的土地利用の顕著な見本である。