ヌビアの遺跡群

               
国名 エジプト・アラブ共和国
世界遺産の名称 ヌビアの遺跡群
遺産の種類 文化遺産
登録年 1979
拡張・範囲変更
登録基準 (ⅰ), (ⅲ), (ⅵ)
備考

ヌビアの遺跡群とは

1979年に世界文化遺産として登録されたエジプト、ナイル川上流のヌビア地方の遺跡群は、古代エジプト新王国時代(紀元前1570年ごろ〜前1069ごろ)、および古代エジプト末期のプトレマイオス朝時代(紀元前304〜前30)に建てられた建造物群です。

登録基準の具体的内容

世界遺産の登録基準はⅰ、ⅲ、ⅵを満たしています。

登録基準ⅰ

ヌビアの遺跡群は、人類の創造的資質を示している。

登録基準ⅲ

ヌビア地方に点在する遺跡は、かつてヌビア地方までエジプト文明が領土を広げていたという証拠である。

登録基準ⅵ

「ヌビア水没遺跡救済キャンペーン」が世界遺産設立のきっかけになったということ。

関連記事:世界遺産とは

遺産概要

ヌビア地方は金などの鉱物の産地であり、またアフリカ奥地との交易の中継基地でした。そのため、エジプトの王たちはたびたびヌビア地方に出兵し、紀元前1550年ごろ、最終的にエジプトの支配下に置きました。そして紀元前1260年ごろ、新王国時代第19王朝のファラオで、「建築王」と呼ばれたラメセス2世は、ヌビア地方の都市アスワンの南約280kmの河岸に巨大な神殿を建造しました。建設地は平地を確保するのが不可能な場所だったため、このアブ・シンベル神殿は、ナイル川にせり出した高い岩山を掘削してつくられた洞窟神殿となりました。

正面入口には、高さ22mもあるラメセス2世の座像が4体切り出され、それぞれの足下には、彼の母や王妃、娘、息子などの小さな立像が彫られています。また、奥に続く大列柱室にもラメセス2世の像が掘り出され、神殿内部の壁にはカデシュの戦いでのラメセス2世が描かれている。さらに、奥行き63mの神殿最奥部にも、太陽神ラー・ホルアクティ、国家神アメン・ラー、メンフィスの守護神プタハの3神の像に交じって、神格化されたラメセス2世の像があります。

これらの像は、ラメセス2世の生まれた日と即位した日の年2回、日の出の太陽光線によって照らし出されるように設計されています。この神殿に見られるように、ラメセス2世は非常に自己顕示欲の強い王だったといわれており、王国の記念建造物に書かれた歴代王の名前を自分の名前に書き換えさせているとも言われています。

また、ラメセス2世は、アブ・シンベル神殿から北に120m離れた場所に、王妃ネフェルトイリのために神殿を築いています。この神殿の入口にも、ネフェルトイリを挟んで4体のラメセス2世像が左右2対掘り出されています。

このふたつの神殿は、1960年に始まったエジプト政府のアスワン・ハイ・ダム建設によって一時水没の危機にありました。ナイル川にはすでにイギリス占領下でつくられたアスワン・ダムがありましたが、ナイル川氾濫を防止するとともに、安定した電力を供給するため、上流にさらに巨大なダムの建設が国家事業として進められたのです。ダム建設を知ったユネスコは、着工の前年からアブ・シンベル神殿についての調査を開始しました。

さらに1960年3月からは、各国に向けて、ヌビアの遺跡群の救済を呼びかけるキャンペーンを始めました。この呼びかけは大いに注目を浴び、その結果、世界50ヵ国が協力を約束して、1964年から救済事業がスタートします。アブ・シンベル神殿を小さなブロックに切断、解体し、西へ210m、元あった場所から64m高い場所に移築することになりました。当時の最新技術を駆使したこの工事は、1968年9月に完了しました。

一方、アスワンの南、ナイル川に浮かぶ小島で「ナイルの真珠」と呼ばれたフィラエ島には、紀元前4〜前3世紀に建てられた古代エジプトの女神イシスをまつるイシス神殿などの遺跡がありました。フィラエのイシス神殿は、主神殿、ハトホル神殿、塔門などで構成されており、壁面にはイシスやハトホルなど女神の彫刻が施されています。この神殿は、五賢帝時代のローマ皇帝に気に入られ、トラヤヌス帝は神殿の敷地に天井のないキオスク(東屋)をつくり、ハドリアヌス帝は神殿の西側にアーチ状の門を建造しました。テオドシウス1世がキリスト教をローマ帝国の国教とする政策を完了したことも記されています。

また、新王国時代の紀元前1450年ごろ、アメンヘテプ2世が建てたカラブシャ神殿も、古代ローマ時代の紀元後30年ごろに再建されており、4世紀ごろにはキリスト教の一派、コプト教の聖堂として使用されました。これらフィラエ島の遺跡も、アスワン・ハイ・ダム建設によって水没の危機に瀕していました。しかし、1972年にアブ・シンベル神殿と同じように、かつてのフィラエ島と地勢がよく似たアギルキア島に移築されました。現在は、このアギルキア島がフィラエ島と呼ばれています。

関連する世界遺産

  1. サワルントのオンビリン炭鉱遺跡

  2. エヴォラの歴史地区

  3. ポン・デュ・ガール(ローマの水道橋)

  4. サンティアゴ・デ・クーバのサン・ペドロ・デ・ラ・ロカ城

  5. エル・タヒンの古代都市

  6. 海港都市バルパライソの歴史地区

  7. サンフランシスコ山地の洞窟壁画

  8. 土司の遺跡群

  9. スホクラントと周辺の干拓地