ユダヤ砂漠にそびえる悲劇の要塞
マサダは、イスラエルのユダヤ砂漠、死海の西側に位置する古代の要塞遺跡で、2001年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。周囲から約450メートルも切り立った孤高の岩山の頂上に、紀元前1世紀にヘロデ大王が築いた壮大な宮殿と難攻不落の要塞が残されています。ここはまた、ローマ帝国に対するユダヤ人の最後の抵抗拠点となった、悲劇的な歴史の舞台でもあります。
世界遺産としての価値
登録基準
マサダは、以下の3つの基準を満たしたことで世界遺産に登録されました。
- (iii) 紀元73年、ローマ軍に包囲されたユダヤ人たちが自由のために最後まで抵抗し、集団自決を選んだという伝説を伝える類まれな証拠であること。
- (iv) ヘロデ大王が築いた豪華な初期ローマ様式の宮殿と、マサダを包囲するためにローマ軍が築いた陣地やスロープが、古代の建築技術と軍事技術を伝える完全な姿で残っていること。
- (vi) 壮絶な最期を遂げたマサダの物語は、ユダヤ人の文化的アイデンティティと、抑圧に抗い自由を求める人間の普遍的な闘争の象徴となっていること。
歴史的意義と建築の卓越性
マサダの価値は、その劇的な歴史と、当時の最高技術を結集した建築群にあります。第一次ユダヤ戦争の末期、ローマ軍に追い詰められたユダヤ人反乱軍の最後の拠点となりました。彼らの壮絶な抵抗と集団自決の物語は、ユダヤ民族の歴史において象徴的な出来事として語り継がれています。
また、ヘロデ大王が築いた宮殿群、ローマ式の浴場、巨大な貯水槽を含む巧妙な水供給システム、堅固な防御施設は、過酷な砂漠環境の中での古代ローマの卓越した建築技術を今に伝えています。
マサダの主要な遺構
マサダには、当時の様子を物語る数多くの遺構が残されています。特に重要なものを以下に示します。
建築遺構 | 説明 |
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ヘロデ大王の宮殿 | 断崖の北端に3層構造で築かれた豪華な宮殿。ヘロデ大王の権力と富の象徴です。 |
ローマ式浴場 | 床暖房システムを備えた浴場。当時の快適な生活様式を反映しています。 |
防御施設 | 周囲を囲む城壁や見張り塔など、要塞としての機能を果たした堅固な構造物群です。 |
水供給システム | 雨水を崖の中腹に掘られた巨大な貯水槽へ導き、溜めるための高度なシステムです。 |
ローマ軍の包囲陣 | マサダを包囲したローマ軍団が築いた8つの陣屋や土塁の跡が、周囲の砂漠にほぼ完全な形で残っています。 |
観光と遺跡の保全
マサダ国立公園は、その歴史的背景と壮大な景観から世界中から多くの観光客を惹きつけています。麓からはロープウェイで山頂へアクセスできるほか、徒歩で「蛇の道」と呼ばれる急な坂道を登ることもできます。貴重な遺跡を未来へ継承するため、観光客の増加が遺跡に与える影響を最小限に抑えるよう、持続可能な観光と保全活動が慎重に進められています。