概要
アラスカ・カナダ国境地帯の山岳公園群は、アメリカ合衆国のアラスカ州とカナダのブリティッシュコロンビア州およびユーコン準州にまたがる、国境を越えた広大な世界自然遺産です。この地域は、世界最大級の非極地氷原と数多くの巨大な氷河、そして北米大陸の最高峰クラスの山々を内包しており、地球上で最も壮大な山岳景観を誇る地域の一つです。1979年に最初の2つの国立公園が登録され、その後1992年と1994年に拡張され、現在の4つの保護区からなる構成となりました。
世界遺産としての価値
この遺産は、その類まれな自然美、地球の歴史を物語る地質学的特徴、そして手つかずの生態系が評価され、以下の4つの登録基準を満たして世界遺産に登録されました。
4つの登録基準
- (vii) 自然美: 巨大な氷原と氷河が創り出すダイナミックな景観、高くそびえる鋭い山々、そして氷河湖やフィヨルドなど、圧倒的なスケールの自然美を有しています。
- (viii) 地球の歴史: 現在も活動が続く氷河や地殻変動は、地球の歴史における氷河時代やプレートテクトニクスを理解する上で極めて重要な見本です。
- (ix) 生態系: 氷河の後退によって裸地となった場所に植物が侵入していく「一次遷移」の過程を観察できるなど、生態系の進化を示す顕著な見本となっています。
- (x) 生物多様性: グリズリーベア、カリブー、ドールシープ、シロイワヤギといった大型哺乳類をはじめ、多くの希少種や絶滅危惧種にとって重要な生息地です。
構成資産
この世界遺産は、アメリカとカナダにまたがる以下の4つの国立公園および州立公園で構成されています。
| 名称 | 国 | 登録年(拡張年) |
|---|---|---|
| クルアニ国立公園保護区 | カナダ | 1979年 |
| ランゲル=セント・イライアス国立公園・保護区 | アメリカ | 1979年 |
| グレーシャーベイ国立公園・保護区 | アメリカ | 1992年 |
| タッチェンシニー=アルセク州立公園 | カナダ | 1994年 |
雄大な自然環境
地形と気候
この地域には、カナダ最高峰のローガン山(5,959m)や、両国で2番目に高いセント・イライアス山(5,489m)をはじめとする北米有数の高峰が連なっています。気候は寒冷で、冬季には大量の雪が降り積もり、広大な氷原と氷河を涵養しています。これらの氷河は谷を削り、壮大なU字谷やフィヨルドといった地形を形成しました。
多様な生態系
沿岸部の温暖な温帯雨林から、内陸部の針葉樹林、そして高山帯のツンドラまで、標高差によって多様な植生が見られます。このような多様な環境は、多種多様な野生動物の生息地となっています。代表的な動物には、グリズリーベア(ヒグマ)、カリブー、ドールシープ、シロイワヤギ、オオカミなどがいます。また、沿岸部ではクジラやアザラシなどの海洋哺乳類も観察できます。
観光と保全
手つかずの自然が残るこの地域は、登山、ハイキング、カヤック、氷河ウォッチングなど、アウトドア活動の聖地として多くの観光客を魅了しています。一方で、その脆弱な自然環境を守るため、厳格な管理と保全活動が行われています。訪問者数を制限したり、環境への影響を最小限に抑えるためのガイドラインを設けたりするなど、持続可能な観光が推進されています。