フライ・ベントスの産業景観とは
フライ・ベントスは、ウルグアイ西部のウルグアイ川沿いに位置する港町です。この地は、19世紀後半から20世紀にかけて、ドイツのリービッヒ社と後のイギリスのアングロ社によって運営された巨大な食肉加工工場があった場所として知られています。「世界の台所」と称され、特にコンビーフや肉エキスを生産し、世界中の食卓、さらには両大戦中の兵士たちの食料を支えました。2015年、この工場施設、港、労働者住宅、社会施設までを含む一連の産業景観が、世界的な食肉産業の歴史を物語る遺産として世界文化遺産に登録されました。
世界遺産登録基準
- (ii) 食肉の生産、加工、世界市場への流通という一連のプロセスに関連する技術や思想が、ヨーロッパと南米の間で交流したことを示す顕著な証拠です。
- (iv) 19世紀から20世紀にかけての産業革命期における、食肉加工技術の発展と、それに関連する社会構造の全体像を示す、他に類を見ない産業建築群です。
遺産の価値
世界を支えた「巨大な食肉工場」
フライ・ベントスの価値は、単なる工場跡地であることにとどまりません。南米の広大な牧草地で育てられた牛を、最新の冷凍技術と工業的生産プロセスを用いて加工し、ヨーロッパをはじめとする世界市場へ供給するという、グローバルな食料供給システムの原型を築いた点にあります。この場所から、近代的な食品産業の歴史が始まったと言えます。
良好に保存された産業遺産群
最盛期には「スローターハウスNo.5」と呼ばれた巨大な食肉処理場から、缶詰工場、発電所、冷凍倉庫、機械室に至るまで、工場の主要な設備が驚くほど良好な状態で保存されています。当時の機械や装置がそのまま残されており、産業化のダイナミズムを肌で感じることができます。
遺産の概要
世界遺産の範囲には、工場施設だけでなく、労働者が暮らした住宅地、学校、病院、社交クラブといった社会・文化施設も含まれています。これにより、産業活動が地域社会全体をどのように形成していったかを総合的に理解することができます。
| 施設 | 特徴 |
|---|---|
| 旧アングロ工場 | 食肉処理場、冷凍施設、缶詰工場など、生産ライン全体が保存されている。 |
| 労働者地区 (Barrio Anglo) | 国籍や役職に応じて設計された労働者向けの住宅街。 |
| 港湾施設 | 製品を世界へ輸出するために使われたクレーンや桟橋が残る。 |
| 産業革命博物館 | 工場の一部を利用し、フライ・ベントスの歴史と技術を紹介している。 |
観光と保全
現在は産業革命博物館として一般公開されており、ガイドツアーに参加することで、巨大な機械が稼働していた往時の様子を追体験できます。産業遺産としての価値を後世に伝えるため、施設の維持管理と歴史研究が続けられています。