トランスバウンダリー・サイトとは、「国境を越える遺産」のことです。
そもそも国境というものは人類の歴史が進むにつれて人為的に引かれたラインであり、国境線にとらわれない自然遺産の登録推薦の際には障壁となってしまっている側面がありました。そこで、多国間の協力のもとで遺産を保護・保全していくためにトランスバウンダリー・サイトという考え方が共通認識となっていきました。
しかし、これは自然遺産だけの話ではありません。文化遺産でも、かつて1つの民族・国家・文化圏であった地域が近代的な国家の成立で分断されてしまっている例は多数あります。そういったケースでも、トランスバウンダリー・サイトの考え方は用いられます。
作業指針では、できる限り関係締約国が共同で登録推薦書を作成し、共同管理委員会・機関などを設立して遺産全体の管理を監督することが推奨されています。
また、現在は1つの締約国内にある世界遺産でも、拡大登録によってトランスバウンダリー・サイトとして扱われるようになることもあります。
その例となる世界遺産は下記が挙げられます。
- ヴィクトリアの滝(ザンビア共和国・ジンバブエ共和国)
- ベルギーとフランスの鐘楼群(ベルギー王国・フランス共和国)
こうしたケースがある一方で、国境を越える世界遺産であっても別々の遺産として登録されているケースも存在します。例えば、イグアス国立公園はアルゼンチンとブラジルの両方に接していますが、別々に登録されています。
また、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路についてもスペインとフランスでは別々に登録されており、このケースではトランスバウンダリー・サイトとはみなされません。
トランスバウンダリー・サイトの一覧(2023年現在)
文化遺産
- ベルギーとフランスの鐘楼群(ベルギー、フランス)
- 慈善の集団居住地群(オランダ、ベルギー)
- ヨーロッパの大温泉保養都市群(イギリス、イタリア、オーストリア、チェコ、ドイツ、フランス、ベルギー)
- グアラニ人のイエズス会ミッション(アルゼンチン・ブラジル)
- カパック・ニャン アンデスの道(アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ペルー)
- シュトルーヴェの測地弧(ベラルーシ、エストニア、フィンランド、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、モルドバ、ロシア、スウェーデン、ウクライナ)
- ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会(ポーランド、ウクライナ)
- ローマの歴史地区(イタリア・ヴァティカン市国)
- ローマ帝国の国境線 – ゲルマニア・インフェリオルのリーメス(ドイツ、オランダ)
- ローマ帝国の国境線-ドナウのリーメス(西部分)(ドイツ、オーストリア、スロバキア)
- エルツ山地(クルスナホリ)鉱業地域(チェコ、ドイツ)
- 16 ‐ 17世紀ヴェネツィア共和国の軍事防衛施設群:スタート・ダ・テッラー西部スタート・ダ・マーレ(クロアチア、イタリア、モンテネグロ)
- ル・コルビュジエの建築作品 ‐ 近代建築運動への顕著な貢献(アルゼンチン、ベルギー、フランス、ドイツ、インド、日本、スイス)
- フェルテー(ノイジードル)湖の文化的景観(オーストリア・ハンガリー)
- セネガンビアのストーン・サークル遺跡群 (ガンビア、セネガル)
- コア渓谷とシエガ・ヴェルデの先史時代の岩壁画(ポルトガル、スペイン)
- ピレネー山脈のペルデュ山(スペイン・フランス)
- アルブラとベルニナの景観とレーティッシュ鉄道(イタリア、スイス)
- アルプス山脈周辺の先史時代の堀立柱住居群(オーストリア、フランス、ドイツ、イタリア、スイス)
- 水銀関連遺産:アルマデンとイドリア(スロベニア、スペイン)
- ムスカウ公園/ムジャクフ公園(ドイツ・ポーランド)
- 中世墓碑ステチュツィの墓所群(ボスニアヘルツェゴビナ、クロアチア、モンテネグロ、セルビア)
- クルスキー砂洲(リトアニア・ロシア)
- シルクロード:長安−天山回廊の交易路網(中国、カザフスタン、キルギス)
- 第一次世界大戦(西部戦線)の慰霊と記憶の場(ベルギー、フランス)
- シルク・ロード:ザラフシャン・カラクム回廊(タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)
自然遺産
- ベロヴェシュカヤ・プーシャ/ビャウォヴィエジャ森林保護区(ベラルーシ、ポーランド)
- アラスカ・カナダ国境地帯の山岳公園群(カナダ、アメリカ)
- ニンバ山厳正自然保護区(コートジボアール、ギニア)
- タラマンカ山脈 ‐ ラ・アミスター自然保護区群/ラ・アミスター国立公園(コスタリカ、パナマ)
- ヴィクトリアの滝(モシ・オ・トゥニャ)(ザンビア、ジンバブエ)
- アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群(ハンガリー、スロバキア)
- ウォータートン・グレーシャー国際平和自然公園(カナダ、アメリカ)
- W国立公園(ベナン、ブルキナファソ、ニジェール)
- ヘーガ・クステン/クヴァルケン群島(フィンランド、スウェーデン)
- サン・ジョルジオ山(イタリア、スイス)
- ウヴス・ヌール盆地(モンゴル、ロシア)
- カルパティア山脈の原始ブナ林とドイツの古代ブナ林(アルバニア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、ドイツ、イタリア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、ウクライナ)
- ワッデン海(デンマーク、ドイツ、オランダ)
- サンガ川流域の3カ国保護地域(カメルーン、中央アフリカ、コンゴ共和国)
- 西天山(カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン)
- ダウリアの景観群(モンゴル、ロシア)
- トゥランの寒冬砂漠群(カザフスタン共和国、トルクメニスタン、ウズベキスタン)