エヴァーグレーズ国立公園とは
エヴァーグレーズ国立公園は、アメリカ合衆国フロリダ州の南端に広がるアメリカ最大の亜熱帯湿地帯です。1979年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。その独特な生態系と生物多様性が評価されていますが、同時に深刻な環境問題を抱える遺産としても知られています。
公園の面積は約592,920ヘクタールに及び、広大な湿地、マングローブ林、そして淡水と海水が混じり合う汽水域など、多様な環境がモザイク状に広がっています。ゆっくりと流れる淡水の様子から「草の川(River of Grass)」とも呼ばれ、この緩やかな水流が複雑で豊かな生態系を育んでいます。
世界遺産登録とその価値
登録基準
エヴァーグレーズ国立公園は、以下の3つの基準を満たしたことで世界自然遺産に登録されました。
- 登録基準(viii): 地球の歴史の主要段階を示す顕著な見本。更新世から続く石灰岩層の上に形成された広大な泥炭地など、カルスト地形と湿地形成のユニークな地質学的プロセスが見られます。
- 登録基準(ix): 生態系や生物群集の進化や発展において、進行中の重要な生態学的・生物学的プロセスを代表する顕著な見本。淡水と海水、亜熱帯と温帯の気候が交わることで、複雑な生物群集が形成される過程を示しています。
- 登録基準(x): 生物多様性の保全上、最も重要かつ主要な生息地。特に多くの水鳥にとって北米で最も重要な繁殖地であり、多数の絶滅危惧種を含む動植物が生息しています。
危機遺産としての側面
その価値の高さとは裏腹に、エヴァーグレーズは深刻な危機に瀕しています。周辺の都市開発や農地化による水流の遮断、農業排水による水質汚染などにより生態系が深刻なダメージを受け、1993年から2007年、そして2010年から現在に至るまで危機遺産リストに登録されています。これは、自然遺産の保全がいかに困難であるかを示す事例ともなっています。
多様な生態系と動植物
エヴァーグレーズの価値の中核をなすのが、その類いまれな生物多様性です。
代表的な動物
- 哺乳類: 絶滅の危機に瀕するフロリダパンサーや、穏やかな性質で知られるウェストインディアンマナティーなどが生息しています。
- 爬虫類: 公園はアメリカアリゲーターと、より希少なアメリカクロコダイルが唯一共存する場所として世界的に知られています。
- 鳥類: 350種以上の鳥類が確認されており、鮮やかなピンク色が美しいベニヘラサギや、純白の羽を持つユキコサギなど、バードウォッチャーにとっての楽園となっています。
観光と保全への取り組み
エヴァーグレーズ国立公園は、その壮大な自然を体験できる観光地としても人気があります。水面を滑るように進むエアボートツアーは、湿地帯の生態系を間近に感じるアクティビティとして有名です。
しかし、観光利用と環境保全の両立は大きな課題です。公園当局や関連機関は、「エバーグレーズ包括的復元計画(CERP)」といった大規模なプロジェクトを通じて、かつての自然な水流を取り戻し、生態系を再生させるための努力を続けています。訪問者への環境教育も積極的に行われており、この貴重な自然を未来へ引き継ぐための取り組みが進められています。
基本情報
項目 | 内容 |
---|---|
所在地 | アメリカ合衆国 フロリダ州 |
登録年 | 1979年 |
遺産種別 | 自然遺産 |
登録基準 | (viii), (ix), (x) |
面積 | 592,920 ha |
危機遺産 | 1993年-2007年、2010年-現在 |