カパック・ニャン アンデスの道とは
カパック・ニャン アンデスの道は、南米アンデス山脈に沿って延びる古代インカの道路網で、2014年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。この壮大な道路網は、インカ帝国の中心地であったクスコを起点とし、現在のアルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ペルーの6カ国にまたがる、全長約30,000キロメートルにも及ぶ広大なネットワークを形成しています。
「カパック・ニャン」とはケチュア語で「王の道」を意味し、インカ帝国の政治、軍事、経済、宗教において重要な役割を果たしました。道路網沿いには、宿場、倉庫、祭祀場など多くの遺跡や文化的なランドマークが点在しています。
世界遺産としての登録基準
カパック・ニャンは、以下の4つの基準を満たしたことが評価され、世界遺産に登録されました。
- 登録基準(ii): インカ帝国がアンデスの険しい地形を克服するために駆使した高度な土木技術と知識は、異なる文化間の価値観の交流を示しています。
- 登録基準(iii): 道路網全体が、インカ帝国の文化と伝統を伝える独自の証拠です。宗教儀式や巡礼の道としても機能し、多くの考古学的遺跡や聖地を含んでいます。
- 登録基準(iv): 広大な帝国を統治するために構築された、インフラ技術の優れた見本です。都市や拠点がこの道路網に沿って発展し、帝国全体の社会構造を強化しました。
- 登録基準(vi): アンデスの自然環境と調和したこの道は、インカの世界観や精神的価値を象徴する遺産です。特に儀式的な巡礼路としての重要性が認められています。
遺産の価値
技術的な卓越性
この道路網は、インカ帝国の優れた技術力を示すものです。アンデス山脈の険しい山々、深い谷、砂漠といった多様な地形を克服するために、石畳の道、階段、吊り橋、排水路などが巧みに建設されました。これらの建設技術は、帝国全土の迅速なコミュニケーションと物資輸送を可能にしました。
文化的な重要性
カパック・ニャンは、単なる交通路ではなく、インカの社会構造、文化、宗教的信念を反映する文化的な空間でした。道路沿いには帝国の重要な都市、行政センター、聖地、倉庫などが戦略的に配置され、当時の生活や信仰を知る上で貴重な情報を提供します。
遺産の概要
多様な地理と気候
カパック・ニャンは、標高6,000メートルを超えるアンデス山脈の高峰地帯から、熱帯雨林、乾燥した沿岸砂漠まで、非常に多様な自然環境を貫いています。この道路は、異なる生態系で暮らす人々や物資を結びつけ、広大な帝国の統合を支える大動脈でした。
構成資産と関連する遺跡
この世界遺産は、6カ国にまたがる273の構成資産(道路区間や関連遺跡)からなる「シリアル・ノミネーション・サイト」です。クスコやマチュ・ピチュといった有名なインカ遺跡も、この広大な道路網によって結ばれていました。ただし、マチュ・ピチュやクスコの歴史地区などは、それぞれが別の世界遺産として登録されており、「カパック・ニャン アンデスの道」の構成資産には直接含まれていません。この遺産は、特定の有名な遺跡だけでなく、帝国を支えた道そのものと、それに付随する多様な施設群の価値を伝えるものです。
観光と保全
カパック・ニャンは、その壮大さから世界中の観光客を惹きつけます。しかし、脆弱な遺跡や自然環境を保護するため、関係6カ国が連携し、持続可能な観光と保全活動を推進しています。訪問者には、インカの文化遺産と自然環境の重要性を理解し、その保護に協力することが求められています。
参考文献
Qhapaq Ñan, Andean Road System – UNESCO World Heritage Centre