プレア・ビヒア寺院とは
プレア・ビヒア寺院は、カンボジア北部のタイとの国境にそびえるダンレック山地の断崖絶壁の頂上(標高525m)に位置する、古代クメール建築のヒンドゥー教寺院です。9世紀から12世紀にかけて歴代のクメール王によって建設が進められ、主にシヴァ神に捧げられました。その絶景のロケーションと、自然の地形を巧みに利用した参道の直線的な配置は、クメール建築の中でも他に類を見ない傑作とされています。2008年にユネスコの世界文化遺産に登録されましたが、その所有権を巡ってはカンボジアとタイの間で長年紛争がありました。
登録基準
プレア・ビヒア寺院は、以下の基準を満たしたと評価され、世界遺産に登録されました。
- (i) 人類の創造的才能を表す傑作。寺院の設計は、自然環境と完全に調和しており、建築の質と彫刻の精緻さにおいて、クメール芸術の最高傑作の一つとされています。
遺産の価値
この寺院の価値は、以下の点に集約されます。
- 建築的価値: 山の尾根に沿って約800mにわたって直線的に配置された伽藍配置は非常にユニークです。ゴープラ(楼門)や参道、聖域が一体となり、天界へと続く精神的な道程を表現しています。
- 芸術的価値: 屋根や破風(はふ)、まぐさ石に施された彫刻は、保存状態が良く、ヒンドゥー教の神話を題材としたものが多く見られます。当時のクメール彫刻の優れた技術を今に伝えています。
遺産の概要
地理と気候
カンボジア北部の山頂に位置し、眼下にはカンボジアの広大な平野が広がります。気候は熱帯モンスーン気候で、雨季と乾季があります。
主要な構造物と特徴
- 参道とゴープラ(楼門): 寺院は山頂に向かって5つのゴープラが直線的に配置されています。参道を進むごとに聖域へと近づいていく構成になっています。
- 中央聖堂: 寺院の中心となる聖堂で、シヴァ神を祀るリンガが安置されていました。
- ナーガの欄干: 参道の両脇には、ヒンドゥー教の神話に登場する蛇神ナーガをかたどった欄干が設けられています。
観光と保全
かつては国境紛争のためアクセスが困難でしたが、現在はカンボジア側からの観光が可能になっています。断崖からの絶景とともに、荘厳なクメール建築を体感できる人気の観光地となっています。遺跡の風化や損傷を防ぐため、ユネスコなどの支援を受けながら慎重な保全活動が進められています。
構造物 | 特徴 |
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第1〜第5ゴープラ | 聖域へと続く5つの楼門。それぞれに美しい彫刻が施されている。 |
中央聖堂 | シヴァ神を祀る寺院の中心部。現在は屋根などが崩落している。 |
断崖(ペイ・ター・ディ) | 寺院の最奥部にある断崖。カンボジア平原を一望できる絶景ポイント。 |