概要
「マロティ‐ドラーケンスベルグ公園」は、南アフリカ共和国とレソト王国にまたがる、壮大な自然景観と貴重な文化的遺産を併せ持つ「複合遺産」です。2000年に南アフリカのウクハランバ・ドラケンスバーグ公園が登録され、2013年にレソトのセアラバセベ国立公園が追加されて国境を越える遺産となりました。切り立った断崖や深い渓谷が織りなす自然美と、数千年にわたって描かれたサン人の岩絵群が特徴です。
壮大な自然景観と生物多様性
ドラーケンスベルグ山脈(「竜の山々」の意)は、玄武岩の断崖と砂岩の崖が特徴的な、息をのむような美しい景観を誇ります。高山ツンドラから森林、草原まで多様な植生が広がり、多くの固有種を含む動植物が生息・生育しています。特に、ヒゲワシやケープハゲワシといった絶滅危惧種の鳥類の重要な生息地となっています。
サン人の岩絵群
この公園のもう一つの重要な価値は、サハラ砂漠以南のアフリカで最も岩絵が集中している地域であることです。約4000年間にわたり、この地に暮らした狩猟採集民サン人によって、洞窟や岩壁に数万点もの絵が描かれました。
- 描かれた内容:エランド(大型のレイヨウ)などの動物、狩りの様子、人々の暮らし、そしてシャーマンがトランス状態になって精神世界と交感する儀式の様子などが描かれています。
- 文化的重要性:これらの岩絵は、サン人の世界観や信仰、社会を理解するための非常に貴重な記録であり、彼らの精神文化の深さを示しています。
登録基準
この遺産は、以下の基準を満たしたとされています。
- (i) 切り立った崖や深い渓谷が織りなす、傑出した自然美を持つ。
- (iii) サン人が残した岩絵群は、彼らの生活様式や精神文化を伝える、既に消滅した文化的伝統に関する類いまれな証拠である。
- (vii) 高山地域における生物多様性と固有種の豊富さは、景観の美しさと共に顕著な価値を持つ。
- (x) 世界的に絶滅が危惧される種を含む、多様な生物の生息地として極めて重要である。