円形都市ハトラとは
円形都市ハトラは、現在のイラク北部に位置し、紀元前2世紀から紀元後3世紀にかけてパルティア帝国のもとで繁栄した古代都市です。交易の重要な拠点として、また宗教の中心地として栄えました。その独特な円形の都市設計と、東西の文化が融合した壮大な建築物群が評価され、1985年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。
世界遺産登録基準
ハトラは、以下の4つの基準を満たしていると評価されています。
- 登録基準(ii): ギリシャ・ローマ建築の特徴と東洋的な装飾要素を見事に融合させた神殿群や城壁は、異なる文化の交流を示す顕著な見本です。
- 登録基準(iii): 「最初のアラブ王国」の首都として、パルティア文明の偉大さを伝える他に類を見ない証拠です。ローマ帝国の侵攻を二度にわたり撃退した歴史を持ちます。
- 登録基準(iv): 囲いの中にイワーン(片側が完全に開いたアーチ状のホール)や列柱を配置した宗教建築群は、パルティア建築の優れた例として重要です。
- 登録基準(vi): 隊商路の戦略的要衝として、商業的・宗教的に重要な役割を果たしました。その神殿ではメソポタミア、シリア、アラブなど多様な神々が祀られていました。
遺産の価値
建築の独自性
ハトラの建築物は、ギリシャ、ローマ、ペルシャ、そしてメソポタミアといった多様な文化の影響が融合している点が最大の特徴です。石灰岩で造られた壮大な神殿や宮殿には、精巧な彫刻やレリーフが施されており、パルティア時代の高い建築技術と芸術性を示しています。
文化的融合
ハトラは様々な文化が交差する場所であり、遺跡は異なる宗教や文化が共存していたことを物語っています。多神教の神々を祀る神殿や、多様な様式の彫像、碑文などは、当時の宗教的な寛容性と文化の豊かさを反映しています。
遺産の概要
地理と構造
砂漠地帯に位置するハトラは、直径約2kmのほぼ完全な円形の都市です。都市全体が高さのある厚い二重の城壁と多数の塔で囲まれており、優れた防衛機能を持っていました。城壁の内部には、中央に巨大な神殿群が配置され、その周囲に住居や公共建築物が広がっていました。
主要な遺物と発見物
ハトラの遺跡からは、精巧な彫刻が施された石碑や、神々や王族の像、建築を彩る華やかな装飾品など、数多くの重要な遺物が発見されています。これらの発見物は、当時の人々の信仰や生活、芸術の水準を知る上で貴重な手がかりとなっています。
近年の状況と保全
2015年、過激派組織ISIL(イスラム国)によって、ハトラの遺跡はブルドーザーや爆薬で大規模に破壊され、その多くが失われました。この破壊行為を受け、同年にユネスコの危機遺産リストに登録されました。現在、イラク政府と国際社会が連携し、被害状況の調査や、残された遺跡の保護・修復に向けた努力が続けられています。地域の情勢により、観光客が安全に訪問できる状況にはありません。
ハトラの主要遺物と特徴
| 遺物 | 特徴 |
|---|---|
| 大神殿群 | ギリシャ・ローマ様式と東洋様式が融合したパルティア建築の代表例。 |
| 彫像・石碑 | 精巧な彫刻が施され、当時の信仰や王の姿を伝えている。 |
| 二重の城壁 | 高い防衛機能を備えた、都市全体を囲む円形の強固な城壁と塔。 |