広島平和記念碑(原爆ドーム)

               
国名 日本
世界遺産の名称 広島平和記念碑(原爆ドーム)
遺産の種類 文化遺産
登録年 1996
拡張・範囲変更
登録基準 (ⅵ)
備考

広島平和記念碑(原爆ドーム)とは

1996年12月の世界遺産委員会で世界文化遺産として登録された、原子爆弾が投下された当時の姿を伝える建造物です。多くの人々の苦労と労力、広島市の協力によって守られてきました。

登録基準の具体的内容

広島平和記念碑(原爆ドーム)は、ICOMOSの報告書に「歴史的価値や、建造物としての価値は認められないが、世界平和を目指す活動の記念碑として世界中でも他に例を見ない建造物である」という記述があり、登録基準ⅵのみでの登録となりました。

登録基準ⅵについては、但し書きとして「この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい」とされています。負の遺産と考えられている物件は登録基準ⅵのみで登録されていることが多いです。

遺産概要

原爆ドームと呼ばれている建物は、1914年にヤン・レツルによって設計され、1915年に広島県物産陳列館として誕生したものです。1945年当時は、広島産業奨励館に改称されていました。

建物は3階建てのレンガ造りで、楕円形のドームや湾曲した壁面からは「ネオ・バロック」の影響が見られます。また、柱頭や窓枠の正方形や幾何学模様を配置した装飾からは19世紀ウィーン分離派のゼツェション様式が確認できます。二つの建築様式が融合したデザインは周囲の庭園とともに当時から市民の注目を集めていました。

産業奨励館は原子爆弾によって一瞬にして廃墟と化しましたが、爆心地から160mの至近距離で被爆したこともあり、爆風がほぼ真上から襲ったことで全壊を免れました。

解体についての議論

戦後、この廃墟となった産業奨励館を解体すべきか保存すべきかの議論が繰り返されていました。「不幸の記憶」か「平和の象徴」かで意見が分かれていたのです。当初は保存に消極的だった広島市が1966年の市議会で「原爆ドーム保存の要望」を満場一致で可決しました。

1992年には、広島市長が世界遺産リストに記載すべくユネスコへの推薦を国に求めましたが、文化財でないという理由で却下されます。文化財としては新しすぎるという理由でした。これに対して、多くの市民が立ち上がり、1993年には「原爆ドームの世界遺産化を進める会」が発足されました。この運動は国会を動かし、1995年、文化財保護法の史跡指定基準の改正を実現させました。

原爆ドーム保存の課題

核兵器の根絶と恒久的な世界平和を訴えるモニュメントとして価値が高い原爆ドームですが、保存について課題があります。

破壊された当時の状態をいかに保つかという点で、むき出しの鉄骨や壁のひびなどを風雨や地震から守る工夫が求められています。

もう一つは、広島市の中心地に立つ原爆ドームの景観をいかに守るかという点で、バッファーゾーン(緩衝地帯)での高層マンション建設や再開発計画などが問題になっています。

第20回世界遺産委員会でのアメリカと中国

1996年、メキシコのメリダ市で開催された第20回世界遺産委員会で、広島平和記念碑(原爆ドーム)は世界遺産に登録されました。21か国中アメリカが不支持、中国は賛否保留でした。

アメリカ不支持の理由

原爆ドームの世界遺産への推薦に関し、歴史的な視点が欠如していることを懸念する。我々が第二次世界大戦を終結させるために、核兵器を使用する状況を迎えることになるまでに起きた様々な事件を知ることが、広島で起きた悲劇を理解するうえで重要になる。1945年を迎えるまでの歴史的な流れの精査が必要である。我々は、戦争に関する物件の登録審議が本会議の範疇から外れていることを確信しており、委員会に対し、戦争関連物件の世界遺産登録に関する妥当性の審議に取り掛かることを強く要望する。

第20回世界遺産委員会

中国賛否保留の理由

第二次世界大戦中、アジア各国、及びその国民たちは侵略や虐殺などのつらい歴史を経験してきた。しかし、現在においても、その事実を否定し続ける人が、少数であるが存在する。このような状況の中、稀有な例と言えるかもしれないが、広島平和記念碑の世界遺産登録が、前述のような少数の人たちによって悪用されないとも限らない。当然、このようなことは、国際平和の維持に良い効果をあげるものではない。以上の理由で、中国は、本審議に関する賛否を保留する。

第20回世界遺産委員会

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