カザンラクのトラキア人の古墳とは
ブルガリア中部の「バラの谷」に位置する「カザンラクのトラキア人の古墳」は、紀元前4世紀末から紀元前3世紀初頭にかけて造られたトラキア人の有力者の墳墓です。レンガ造りのドーム型墳墓(トロス)であり、内部の墓室に描かれた精緻で保存状態の良いフレスコ画が発見されたことで世界的に有名になりました。この壁画の芸術的価値が特に高く評価され、1979年に世界文化遺産に登録されました。
ヘレニズム美術の傑作
この古墳の最大の価値は、羨道(通路)と主室の壁から天井にかけて描かれたフレスコ画にあります。これらは古代ギリシャのヘレニズム美術の影響を色濃く受けており、当時の絵画芸術を知る上で非常に貴重な資料です。特に主室のドーム天井に描かれた、葬送の宴で手を取り合う夫婦の姿や、それを取り巻く人々、馬車レースの場面などは、写実的で生き生きとした表現が見事です。
世界遺産登録基準
- 登録基準(i):そのフレスコ画は、ヘレニズム期の絵画芸術における人類の創造的才能を示す傑作と評価されています。
- 登録基準(iii):古代トラキア人の葬送儀礼や文化、信仰に関する比類なき証拠を提供しています。
- 登録基準(iv):ドーム型のレンガ建築は、トラキア人の優れた建築技術を示す好例です。
古墳が物語るトラキア文化
フレスコ画は、トラキア人の死生観や生活様式を垣間見ることができる貴重な史料です。描かれた人々の服装や宴の様子は、謎の多いトラキア文化を解明する上で重要な手がかりとなっています。なお、貴重な壁画を保護するため、オリジナルの古墳は非公開となっており、すぐ隣に建設された精巧なレプリカが見学用に公開されています。