チャコ文化とは
チャコ文化は、アメリカ合衆国ニューメキシコ州のチャコ・キャニオンを中心に、西暦850年から1250年頃にかけて繁栄した古代アメリカ先住民の文化です。この地域は、その優れた文化的価値が認められ、1987年にユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されました。
この文化は、壮大な石造りの建築群、広範囲に及ぶ道路網、そして高度な天文学の知識を持っていたことで知られています。特に「グレートハウス」と呼ばれる大規模な集合住宅が数多く残されており、その中でも「プエブロ・ボニート」は最大級のものです。これらの遺跡は、当時の人々の高度な社会組織と技術水準を現代に伝えています。
世界遺産としての価値
登録基準 (iii)
チャコ文化の遺跡群は、登録基準(iii)「現存しない文化伝統や文明の、独創的または少なくとも希有な証拠」を満たすものとして評価されています。北米のプエブロ文化が、特に9世紀から13世紀にかけてどのように発展し、独自の建築様式や社会を築き上げたかを示す、他に類を見ない物的な証拠とされています。
歴史的・考古学的重要性
チャコ・キャニオンの遺跡は、歴史的、文化的、考古学的に非常に高い価値を持っています。精密に設計された多層階の建築物や儀式に使われた「キヴァ」は、当時の人々の宇宙観や宗教観、共同体のあり方を物語っています。また、発掘された土器や道具類は、彼らの生活様式や他の地域との交易を解明する上で重要な手がかりとなっています。
遺跡の主な構成要素
チャコ文化の遺跡には、特徴的な建造物がいくつも含まれています。
- プエブロ・ボニート (Pueblo Bonito): チャコ文化を代表する最大の「グレートハウス」。半円形のプランを持ち、最盛期には600以上の部屋があったと推定される大規模な石造りの集合住宅です。
- キヴァ (Kiva): 宗教的な儀式や集会のために使われた、円形で半地下式の建造物です。共同体の結束を高める上で中心的な役割を果たしていました。
- チャコ道路網 (Chacoan Roads): チャコ・キャニオンを中心に、周辺の集落へと放射状に延びる直線的な道路網です。全長数百キロメートルに及び、交易だけでなく、人々の移動や巡礼にも使われたと考えられています。
地理と現在の姿
地理的特徴
チャコ・キャニオンは、ニューメキシコ州北西部の高地砂漠地帯に位置しています。年間を通じて降水量が少なく乾燥した気候が、石造りの遺跡を長期間にわたって良好な状態で保存する一因となりました。
観光と遺跡の保全
現在、この地域は「チャコ文化国立歴史公園」としてアメリカ合衆国国立公園局によって管理されています。多くの観光客がその壮大な景観と歴史的な遺跡を訪れますが、風化や人的な影響から脆弱な遺跡を守るため、厳格な保全活動が続けられています。遺跡の保護と持続可能な観光の両立が、今後の重要な課題です。
参考文献
- UNESCO World Heritage Centre – Chaco Culture
- National Park Service – Chaco Culture National Historical Park