概要
「ヨーロッパの庭」とも称されるレドニツェ=ヴァルチツェの文化的景観は、チェコ南東部、オーストリアとの国境近くに広がる約300平方キロメートルにも及ぶ広大な人工景観です。17世紀から20世紀にかけて、この地を統治したリヒテンシュタイン家が、自らの権勢と美的センスを示すために造り上げました。二つの壮麗な城を中心に、イギリス式風景庭園の思想に基づき、自然と建築が見事に融合した景観が評価され、1996年に世界文化遺産に登録されました。
主な構成資産
レドニツェ城
リヒテンシュタイン家の夏の離宮として使用された城で、現在の姿は19世紀にイギリスのネオゴシック様式(チューダー・ゴシック様式)で改築されたものです。城内には豪華な木彫りが施された図書館や階段があり、隣接する温室は当時最新の鉄とガラスで造られました。フランス式の幾何学庭園と広大なイギリス式公園が広がります。
ヴァルチツェ城
リヒテンシュタイン家の主な居城であったバロック様式の壮大な宮殿です。オーストリアの著名な建築家ヨハン・ベルンハルト・フィッシャー・フォン・エルラッハが設計に関わりました。現在、城の地下セラーはチェコ国立ワインセンターとして利用されています。
景観内の建築物(フォリー)
広大な公園内には、訪問者を驚かせ、楽しませるための装飾的な小建築物「フォリー」が点在しています。主なものに以下があります。
- ミナレット:イスラム様式の尖塔。ヨーロッパの庭園にあるものとしては最大級。
- ヤヌーフ城(ヤンの城):城の廃墟を模して造られたロマンチックな狩猟の館。
- 三美神の神殿:ギリシャ神殿風の建物で、美の女神たちの彫刻が立つ。
- ランデヴー(ディアナの神殿):ローマの凱旋門を模した狩猟の館。
世界遺産登録基準
- (i) 人間が創造した景観の傑作であり、バロック期の原理とイギリスのロマン主義的造園術が融合し、独創的な景観芸術を生み出した。
- (ii) ヨーロッパの二つの主要な文化、ハプスブルク帝国とブルボン朝フランスの文化が交流し、その影響が景観と建築に示されている。
- (iv) 啓蒙主義時代のヨーロッパ貴族の権力と文化を象徴する、計画的に設計された文化的景観の顕著な例である。
参考文献
- UNESCO World Heritage Centre. “Lednice-Valtice Cultural Landscape”. https://whc.unesco.org/en/list/763