概要
トラムンタナ山脈の文化的景観は、スペイン領マヨルカ島の北西部に連なるトラムンタナ山脈一帯の景観で、2011年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。この地域は、乏しい水と急峻な土地という厳しい自然環境の中、イスラムとキリスト教の文化が融合した知識と技術を用いて、何世紀にもわたり農業が行われてきた結果、形成された独特の景観です。
景観の形成と歴史
この文化的景観の基盤は、10世紀にマヨルカ島を支配したイスラム教徒(ムーア人)がもたらした高度な水利技術にあります。彼らは「カナート」と呼ばれる地下水路や水路網を整備し、乾燥した土地での農業を可能にしました。13世紀のレコンキスタ(国土回復運動)以降、キリスト教徒がこの地を支配するようになると、彼らはイスラム時代の灌漑システムを維持・発展させるとともに、山の斜面を切り開いて石積みの棚田(段々畑)を広げました。こうして、オリーブ、オレンジ、ブドウなどを栽培する現在の景観が作り上げられました。
持続可能な土地利用
トラムンタナ山脈の景観は、自然と人間が調和した持続可能な土地利用の優れた例です。水車や貯水池を含む精巧な水管理システム、土地の浸食を防ぐ石積みの棚田、農作業のための石畳の道などがネットワークとして一体化し、厳しい環境に適応した農業システムを構築しています。これらの伝統的な土地利用は、現在も一部で受け継がれています。
世界遺産登録基準
- (ii) イスラムとキリスト教という異なる文化圏の知識と技術が長期間にわたり交流・融合し、独特の農業景観を生み出した。
- (iv) 急峻な山岳地帯に築かれた棚田、水路、石造りの建造物群は、人間の土地利用技術を示す顕著な見本である。
- (v) 乏しい資源という制約の中で、何世紀にもわたって持続可能な農業を可能にしてきた伝統的な土地利用の優れた例である。