ヴァッセのアポロン・エピクリオス神殿とは
ギリシャのペロポネソス半島内陸部、標高1,130メートルの山中に孤立して佇むアポロン・エピクリオス神殿は、古代ギリシャ建築の傑作の一つです。アテネのパルテノン神殿を設計した建築家イクティノスによる作品とされ、その革新的なデザインと優れた保存状態から、1986年にギリシャで最初にユネスコ世界文化遺産に登録された物件の一つです。
遺産の価値と登録基準
この神殿は、疫病の終焉を感謝して太陽神アポロンに捧げられました。「エピクリオス(救い主)」の称号がその由来を物語っています。人里離れた立地のため、後世の破壊を免れ、古代の姿を比較的よく留めている点が特徴です。
- 登録基準(i): 古代ギリシャの三大建築様式すべてを大胆に組み合わせた、独創的で優れた芸術的達成を示す傑作です。
- 登録基準(ii): ドリス式、イオニア式、コリント式の要素を一つの建造物の中に融合させるという試みは、ギリシャ建築の発展における重要な革新を示しています。
- 登録基準(iii): 辺境の地にありながら、古典主義建築の粋を集めたこの神殿は、古代アルカディア人の信仰と芸術水準を証明する貴重な物証です。
神殿の建築的特徴
この神殿は、外部を囲む周柱式に伝統的なドリス式を用いつつ、内部の「ナオス(内陣)」の壁面にはイオニア式の付け柱を採用しています。そして、最も奥には、現存最古とされるコリント式の柱頭を持つ柱が一本配置されていました。このように異なる様式を一つの調和した空間に統合した点は、建築史上で画期的とされています。
観光と保全
厳しい気候による損傷から神殿を保護するため、1987年以降、建物全体が巨大なテントで覆われています。このテントの下で、ギリシャ文化省による大規模な修復・保存作業が長年にわたり続けられています。訪問者は、この保護施設の中から神殿を見学することができます。