トリニダードとロス・インヘニオス盆地とは
トリニダードとロス・インヘニオス盆地は、キューバ中央部に位置する、18世紀から19世紀にかけて砂糖産業で栄えた地域の歴史的遺産です。1514年にスペイン人によって建設された都市トリニダードと、その背後に広がるサトウキビ大農園(プランテーション)地帯であるロス・インヘニオス盆地(「砂糖工場群の谷」の意)が一体となって、1988年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。トリニダードの街には、砂糖貿易で得た莫大な富によって建てられた色彩豊かなコロニアル様式の邸宅が立ち並び、盆地には当時のプランテーションの遺構が点在しています。この遺産は、カリブ海の砂糖産業の繁栄と、それを支えた奴隷労働の歴史を物語っています。
登録基準
この遺産は、以下の2つの基準を満たしたと評価されています。
- (iv) あるひとつの時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積、または景観の顕著な見本。トリニダードの都市計画と建築は、カリブ海の植民都市の典型例であり、ロス・インヘニオス盆地の産業景観とともに、砂糖経済に依存した社会の構造を明確に示しています。
- (v) あるひとつの時代を例証する伝統的な集落や土地利用の顕著な見本。サトウキビ栽培と砂糖生産に特化した土地利用は、一度は繁栄したものの、その後の産業構造の変化によって衰退したモノカルチャー経済の歴史を物語っています。
遺産の価値
この遺産の価値は、その歴史的な景観の保存状態の良さにあります。
- 歴史的建築と都市景観: トリニダードの旧市街は、石畳の道、パステルカラーの壁、鉄格子の窓を持つ邸宅が並び、まるで時間が止まったかのような景観を保っています。マヨール広場を中心に、スペイン植民地時代の都市の姿がほぼそのまま残されています。
- 砂糖産業の遺産: ロス・インヘニオス盆地には、プランテーション経営者の邸宅、奴隷小屋の跡、砂糖工場の廃墟、そして奴隷を監視するためのマナカ・イスナガの塔などが残っており、当時の社会構造と生産システムを具体的に知ることができます。
遺産の概要
地理と気候
キューバ中央部の南海岸近くに位置し、エスカンブライ山脈とカリブ海に挟まれています。温暖な熱帯気候と肥沃な土地が、サトウキビ栽培に適していました。
主要な建築物と遺跡
- トリニダード旧市街: マヨール広場、サンティシマ・トリニダード教会、歴史博物館(旧カンテロ邸)など、豪華なコロニアル建築が集中しています。
- ロス・インヘニオス盆地: 約70の砂糖工場の跡地が点在しています。特に、奴隷監視塔として使われた高さ45mのマナカ・イスナガの塔は、この地域の象徴的な存在です。
観光と保全
キューバ屈指の観光地として人気が高く、多くの観光客がその美しい街並みを楽しんでいます。歴史的建造物の保存と、観光の発展との両立が課題となっており、市の歴史家オフィスが中心となって厳格な保全計画を進めています。
| 建築物・遺跡名 | 場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| マヨール広場 | トリニダード | 旧市街の中心。周囲を教会や富豪の邸宅が囲む美しい広場。 |
| 歴史博物館(旧カンテロ邸) | トリニダード | 砂糖で財をなした富豪の邸宅。塔からは街を一望できる。 |
| マナカ・イスナガの塔 | ロス・インヘニオス盆地 | 奴隷を監視するために建てられた石造りの塔。盆地のシンボル。 |
| サン・イシドロ・デ・ロス・デスティラデロス遺跡 | ロス・インヘニオス盆地 | 保存状態の良い砂糖工場の遺跡。邸宅、塔、工場跡が残る。 |