アッシュール(カラアト・シェルカート)とは
アッシュール(カラアト・シェルカート)は、イラク北部のティグリス川中流域に位置する古代都市遺跡です。紀元前3千年紀に創建され、アッシリア帝国の最初の首都として、また宗教的な中心地として繁栄しました。シュメール、アッカド、アッシリア、バビロニアといったメソポタミアの諸文明が交差する要衝であり、その遺跡は古代文明を理解する上で非常に重要な価値を持っています。2003年にユネスコの世界文化遺産に登録されましたが、近隣のダム建設計画や地域の情勢不安から、登録と同時に危機遺産リストにも記載されています。
世界遺産としての価値
アッシュールは、アッシリア文明の興亡を物語る貴重な証拠として、以下の基準を満たし世界遺産に登録されました。
登録基準
- (iii) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
アッシュールは、アッシリア最初の首都として、その宗教、文化、歴史の類まれな証拠を提供しています。最高神アッシュルを祀る宗教都市として、また交易の中心地として栄えた都市国家の姿は、失われたメソポタミア文明の姿を現代に伝えています。 - (iv) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた見本。
遺跡には、シュメール時代からパルティア時代に至るまで、各時代の特徴を示すジッグラト(聖塔)、神殿、宮殿、城壁などが残されています。これらの建造物群は、古代メソポタミアにおける都市計画や建築技術の発展段階を示す傑出した例です。
主な遺跡と特徴
宗教・政治の中心地
アッシュールは、帝国名や民族名の由来ともなった最高神「アッシュル」を祀る信仰の中心地でした。巨大なアッシュル神殿や新年祭の儀式が行われたアキツ神殿などがその象徴です。また、最初の首都として王宮や行政機関が置かれ、広大なアッシリア帝国を統治する政治的な拠点としての役割も担っていました。
都市構造と建築
都市は堅固な城壁で囲まれ、ティグリス川に面した断崖という自然の地形を巧みに利用した防御機能を持っていました。発掘調査により、重層的な都市の構造や、日干しレンガを用いた独特の建築様式が明らかになっています。遺跡から出土した楔形文字の粘土板文書や円筒印章などは、当時の社会や文化を知る上で一級の資料とされています。
保護の現状と課題
アッシュールの遺跡は、長年の紛争や情勢不安により、深刻な危機に瀕しています。2003年の危機遺産登録の直接的な原因となったダム計画は中断されていますが、遺跡の略奪や破壊のリスクは依然として高く、組織的な保全活動が困難な状況が続いています。国際社会による支援のもと、将来的な保護と研究に向けた努力が求められています。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | アッシュール(カラアト・シェルカート) |
| 所在地 | イラク共和国 サラーフッディーン県 |
| 登録年 | 2003年 |
| 登録基準 | (iii), (iv) |
| 危機遺産 | 2003年 – 現在 |
参考文献: UNESCO World Heritage Centre – Ashur (Qal’at Sherqat)