エルサレムの旧市街とその城壁群とは
エルサレムの旧市街とその城壁群は、東エルサレムに位置する世界文化遺産です。1981年にヨルダンの推薦により登録されましたが、その複雑な政治情勢から1982年以降は危機遺産リストにも記載され続けています。この地はユダヤ教、キリスト教、イスラム教という三大一神教の聖地が密集する、世界でも類を見ない場所です。
城壁に囲まれた約1平方キロメートルの区域は、ユダヤ人地区、キリスト教徒地区、イスラム教徒地区、アルメニア人地区の4つに分かれており、多様な文化が共存しながら重層的な歴史を刻んできました。
世界遺産登録基準
この遺産は、以下の3つの基準を満たしたことが評価され、世界遺産に登録されました。
- 登録基準(ii): 長い歴史の中で、建築、芸術、都市計画において、異なる文化間の価値観の交流を示している。特に、三大宗教に関連する記念碑的建造物は、その顕著な例である。
- 登録基準(iii): エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教にとっての聖地であり、それぞれの文明を証明する類まれな証拠となっている。
- 登録基準(vi): 三大宗教と直接的かつ具体的に関連し、普遍的な重要性を持つ出来事、信仰、伝統の中心地である。
遺産の価値
三大宗教が共存する聖地
エルサレムは、各宗教にとって非常に重要な意味を持つ聖地です。ユダヤ教徒にとってはダビデ王以来の首都であり神殿が置かれた場所、キリスト教徒にとってはイエス・キリストが教えを説き、生涯を終え、復活した場所、そしてイスラム教徒にとっては預言者ムハンマドが昇天した聖なる場所とされています。これらの聖地が狭い地域に共存していることが、この遺産の最大の価値です。
重層的な歴史の証人
エルサレムは紀元前から現代に至るまで、数多くの歴史的出来事の舞台となってきました。ローマ帝国、ビザンツ帝国、イスラム王朝、十字軍、オスマン帝国など、様々な文明がこの地を支配し、その痕跡を刻んできました。旧市街の建築物や遺跡は、そうした重層的な歴史と文化交流を物語る貴重な証拠です。
主な見どころ
旧市街には、各宗教を象徴する数多くの重要な建築遺構が存在します。
| 建築遺構 | 説明 |
|---|---|
| 嘆きの壁(西壁) | ユダヤ教の聖地。かつてこの地にあったエルサレム神殿の西側の外壁の一部で、世界中のユダヤ教徒にとって最も重要な祈りの場です。 |
| 聖墳墓教会 | イエス・キリストが磔刑に処され、埋葬された後、復活したとされる場所に建つ教会。キリスト教最大の聖地の一つで、複数の宗派によって共同管理されています。 |
| 岩のドーム | イスラム教の聖地「ハラム・アッシャリーフ(神殿の丘)」の中心に建つ黄金のドームを持つ聖堂。預言者ムハンマドが昇天したとされる聖なる岩を祀っています。 |
観光と保全の課題
世界中から多くの巡礼者や観光客が訪れるエルサレム旧市街では、遺産の保護が大きな課題となっています。特に、政治的な緊張や都市開発の圧力、観光客の増加などが遺産に与える影響が懸念されています。危機遺産として、国際社会による継続的な監視と支援のもと、この貴重な人類共通の財産を未来へ継承していくための取り組みが求められています。