殷墟とは
殷墟(いんきょ)は、中国河南省安陽市にある古代の遺跡で、紀元前1300年頃から約250年間にわたって栄えた商(殷)王朝後期の首都跡です。20世紀初頭の発見以来、中国最古の文字体系である「甲骨文字」や高度な青銅器が多数出土し、伝説上の存在とされてきた商王朝の実在を証明しました。2006年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。
世界遺産としての価値
殷墟は、中国の青銅器時代の頂点を示す、他に類を見ない証拠です(登録基準iii, iv)。ここで出土した精巧で大規模な青銅器は、当時の王の絶大な権力と高度な鋳造技術を物語っています。また、亀の甲羅や動物の骨に刻まれた甲骨文字の発見は、中国の文字文化の起源を明らかにし、古代の政治、社会、信仰を知る上で第一級の史料となっています。殷墟は、東アジアにおける初期文明の発展と文化交流を理解する上で不可欠な遺跡として評価されています(登録基準ii, vi)。
主な遺跡
広大な殷墟の遺跡は、いくつかの地区に分かれています。
- 宮殿宗廟遺跡:商王が政務を執り、祖先を祀ったとされる中心区域。大規模な建物の土台が発見されています。
- 王陵遺跡:商王の巨大な墓が13基発見された区域。王の死後も権威が続くことを示すため、多くの殉死者や豪華な副葬品が共に埋葬されていました。
- 婦好墓(ふこうぼ):王妃でありながら将軍でもあった婦好の墓。盗掘を免れた唯一の王族墓で、約2000点に及ぶ青銅器や玉器が出土しました。