テル・アビーブの「ホワイト・シティ」とは
「テル・アビーブのホワイト・シティ」は、イスラエルのテル・アビーブにある近代建築が集中する地区の通称です。その独特な都市景観と建築的価値から、2003年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。その名の通り、白を基調とした建物が多いため「ホワイト・シティ」と呼ばれています。
この街並みは、1930年代から1950年代にかけて、ナチス・ドイツから逃れてきた多くのユダヤ人建築家たちによって築かれました。彼らはヨーロッパで学んだバウハウスをはじめとするモダニズム建築の理念を、地中海の強い日差しや気候に適応させながら、新しい都市を創造したのです。
世界遺産としての価値
登録基準
ホワイト・シティが世界遺産に登録された理由は、主に以下の2つの基準に基づいています。
- 登録基準(ii): ヨーロッパのモダニズム建築の理念が、現地の気候や文化と見事に融合し、まったく新しい建築・都市のアンサンブルを生み出した「文化交流の証拠」として高く評価されました。
- 登録基準(iv): 20世紀前半の近代都市計画と建築の発展段階を示す、きわめて優れた見本であると認められました。住民の生活の質を向上させるための緑地や公共空間の設計など、その先進的なアプローチは今日でも重要な意味を持っています。
歴史的・建築的意義
ホワイト・シティの価値は、その歴史的背景と建築デザインの革新性にあります。この街は、新しい国家の建設という希望と共に築かれた「実験都市」であり、当時の社会的・文化的背景を色濃く反映しています。建築的には、シンプルな幾何学的フォルム、機能性を重視した装飾の少ないデザイン、平らな屋根、そして暑い気候に対応するための深いバルコニーや横長の窓などが特徴で、機能性と美しさを両立させています。
ホワイト・シティの見どころ
ホワイト・シティには約4,000棟ものモダニズム建築が現存しており、街全体が「生きた建築博物館」のようです。特にロスチャイルド大通りやシェンキン通り、ディズンゴフ広場周辺では、その美しい街並みを堪能することができます。
主要な建築物・エリア
数多くの建築物の中でも、特に象徴的なものをいくつか紹介します。
| 建築物・エリア | 特徴 |
|---|---|
| ディズンゴフ広場 | 1930年代の都市計画を象徴する円形の広場。周辺には多くのモダニズム建築が立ち並び、市民の憩いの場となっています。 |
| バウハウス・センター | ホワイト・シティの建築に関する情報発信拠点。建築様式に関する展示や資料が充実しており、ガイドツアーも提供しています。 |
| シネマ・ホテル | 元々は「エステル映画館」として建設された、流線型のデザインが美しいバウハウス様式の象徴的な建物。現在はホテルとして利用されています。 |
観光と保全の現状
ホワイト・シティは、そのユニークな建築と歴史に惹かれる多くの観光客が訪れる人気のスポットです。建築をテーマにしたガイドツアーも数多く開催されています。一方で、テル・アビーブは発展を続ける現代都市でもあります。歴史的建造物を保護し、その価値を未来に継承するため、市や住民による修復・保全活動が継続的に行われています。
テル・アビーブのホワイト・シティは、過去の理念が現代の生活の中に息づく貴重な遺産です。この美しい街並みを訪れることは、20世紀の都市と建築の歴史を体感する素晴らしい機会となるでしょう。
参考文献
テル-アビーブのホワイト・シティ ― 近代化運動 – UNESCO World Heritage Centre (日本語)