マテーラの概要と歴史
「マテーラの洞窟住居と岩窟教会公園」は、イタリア南部のバジリカータ州に位置する、古代の洞窟住居群(サッシ)と岩窟教会からなる世界遺産です。1993年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。石灰岩の渓谷の斜面に掘られた住居が連なるその景観は、他に類を見ない独特の美しさと歴史的価値を誇ります。
この地域における人々の居住の歴史は非常に古く、旧石器時代にまで遡ると考えられています。何千年もの間、人々は自然の洞窟を住まいとして利用し、時代と共にそれを拡張・改良しながら、複雑で密集した集落を形成してきました。
世界遺産としての価値
登録基準
マテーラは、以下の3つの基準を満たしたことにより世界遺産に登録されました。
- 登録基準(iii): 地中海地域における、先史時代から続く洞窟住居という、すでに消滅した文化的伝統の類い稀な証拠であること。
- 登録基準(iv): 人類の歴史の重要な段階を物語る、建築様式や景観の顕著な見本であること。
- 登録基準(v): 自然環境と調和し、持続可能であった人類の伝統的集落の顕著な見本であること。
歴史的・文化的重要性
マテーラの価値は、単に古い住居群であることにとどまりません。先史時代から現代に至るまで、人々がどのように自然環境に適応し、独自の文化を築いてきたかを示す生きた証拠です。また、敷地内には100を超える岩窟教会が点在し、内部にはビザンティン様式の影響を受けた中世のフレスコ画が数多く残されています。これらは、キリスト教文化と地域の伝統が融合した独特の信仰の形を今に伝えています。
サッシ地区と岩窟教会の見どころ
洞窟住居「サッシ」の構造
マテーラの集落は、サッソ・カヴェオーゾとサッソ・バリサーノという2つの主要な地区から構成されています。住居は単なる洞窟ではなく、内部に居住空間、家畜小屋、貯水槽などを備えた複雑な構造を持っています。屋根が下の家の通路や庭になるなど、迷路のように入り組んだ構造が特徴的です。かつては貧困と不衛生の象徴とされた時代もありましたが、現在はその歴史的価値が見直され、ホテルやレストラン、工房として再生されています。
代表的な教会
マテーラには数多くの岩窟教会が存在し、それぞれが独自の魅力を持っています。
| 名称 | 特徴 |
|---|---|
| サッシ(洞窟住居群) | 渓谷の斜面に広がる、旧石器時代から続く居住地の総称。 |
| サンタ・マリア・デ・イドリス教会 | 大きな岩山の中に掘られた教会で、ビザンティン様式の美しいフレスコ画が残る。 |
| サン・ピエトロ・バリシアーノ教会 | サッソ・バリサーノ地区で最大級の岩窟教会。地下にはかつての墓所がある。 |
観光と遺産の保全
今日、マテーラはそのユニークな景観から世界中の観光客を魅了する人気の観光地となっています。映画のロケ地としても度々使用され、その知名度はますます高まっています。一方で、増加する観光客がこの脆弱な遺産に与える影響も懸念されています。そのため、地域社会と行政が一体となり、遺跡の保護と持続可能な観光を両立させるための取り組みが進められています。この貴重な人類の遺産を未来へと継承していくために、私たち訪問者一人ひとりも、その歴史と文化に敬意を払うことが求められます。