「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群とは
「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群は、福岡県宗像市と福津市に位置する、古代からの信仰の伝統を今に伝える資産群です。2017年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。大陸との交流の要所に位置するこの地域では、航海の安全と交流の成功を祈るための祭祀が古代から行われてきました。
この遺産群は、神聖な島である沖ノ島と、それを祀る宗像大社の三つの宮、祭祀を担った古代豪族の古墳群など、合計8つの資産で構成されており、4世紀から9世紀にかけての信仰のあり方と、それが現代まで受け継がれている様子を物語っています。
世界遺産としての価値と登録基準
この遺産群は、以下の2つの基準を満たしたことで世界遺産に登録されました。
登録基準(ii): 人類の価値の重要な交流を示すもの
沖ノ島の遺跡からは、朝鮮半島や大陸からもたらされた指輪や鏡など、約8万点もの奉献品が国宝として指定されています。これらの奉献品は、古代の日本列島が朝鮮半島やアジア大陸と活発な交流を行っていたことを示す貴重な証拠です。時代と共に奉献品が変化していく様子は、古代東アジアの交流の歴史そのものを物語っています。
登録基準(iii): 文化的伝統の類いまれな証拠
沖ノ島の祭祀遺跡は、古代の国家的な祭祀が手つかずの状態で保存されている、世界でも類を見ない例です。また、島そのものを神として崇拝する信仰は、宗像大社での祭礼を通じて形を変えながらも現代まで途切れることなく継承されています。このように、古代の信仰が「生きている伝統」として受け継がれている点が、世界的に見ても非常に稀な証拠として評価されました。
主な構成資産
遺産群は、信仰の核心である沖ノ島と、関連する史跡で構成されています。
- 沖ノ島
島全体が宗像大社沖津宮の御神体であり、古代祭祀の遺跡が手付かずの状態で残る神聖な島です。膨大な数の奉献品が出土したことから「海の正倉院」とも呼ばれます。 - 宗像大社(むなかたたいしゃ)
日本神話に登場する宗像三女神を祀る神社の総本社で、以下の三宮からなります。- 辺津宮(へつぐう): 九州本土に位置し、三宮の総社としての役割を果たします。
- 中津宮(なかつぐう): 大島に位置しています。
- 沖津宮(おきつぐう): 沖ノ島に鎮座しています。
- 沖津宮遙拝所(おきつみやようはいじょ)
一般の上陸が禁じられている沖ノ島を遥拝するために、大島の北側に設けられた場所です。 - 新原・奴山古墳群(しんばる・ぬやまこふんぐん)
沖ノ島の祭祀を担った古代の有力氏族、宗像氏の墳墓群と考えられています。海を臨む台地に築かれ、古代の信仰と権力の結びつきを示しています。
観光と保全
「神宿る島」という名の通り、沖ノ島は現在も信仰の対象であり、その神聖さを守るために厳しい禁忌が守られています。一般の人の島への上陸は原則として固く禁じられています。そのため、訪問者は九州本土の辺津宮や大島の中津宮、そして沖津宮遙拝所から、神の島に祈りを捧げます。
貴重な遺産を未来へ引き継ぐため、地域社会と行政が一体となって厳格な保全活動が行われています。遺産を訪れる際は、その歴史と信仰に敬意を払い、静かに見守ることが求められます。
まとめ
「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群は、古代東アジアの活発な交流と、そこで育まれた信仰が現代まで生き続ける、世界でも類まれな文化遺産です。その価値を理解し、未来へと守り伝えていくことは、私たち全員に課せられた重要な責務といえるでしょう。