砂漠の城クサイラ・アムラとは
クサイラ・アムラは、ヨルダン東部の砂漠地帯に佇む、8世紀前半のウマイヤ朝時代に建設された小規模な城(離宮)です。1985年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。この建物は、浴場施設(ハンマーム)と謁見ホールからなり、カリフの狩猟や宴会などのための遊興施設として使われたと考えられています。その最大の価値は、保存状態の良いフレスコ画で壁や天井が埋め尽くされている点にあり、イスラム初期の世俗芸術を伝える類まれな遺産です。
世界遺産登録基準
- (i) 現存するイスラム初期の壁画として、その構成と主題において独創的な傑作である。
- (iii) イスラム文明の黎明期における宮廷芸術と生活様式を伝える、他に類を見ない証拠である。
- (iv) ウマイヤ朝時代の離宮と浴場の建築様式を示す、完全な形で残る優れた見本である。
遺産の価値
クサイラ・アムラの価値は、その内部を飾るフレスコ画に集約されています。偶像崇拝を禁じるイスラム教の原則から、モスクなどの宗教施設では人物や動物の表現は厳しく制限されます。しかし、この世俗的な離宮の壁画には、ヘレニズムやローマの様式を受け継ぎつつ、当時の生活を生き生きと描いた場面が数多く残されています。
- 多様な主題:描かれているのは、狩猟の場面、踊り子や音楽家、動物、そして当時のウマイヤ朝が打ち破ったとされる諸王(西ゴート王、ビザンツ皇帝など)を描いたとされる「六王図」など多岐にわたります。
- 天球図:浴場のドームの一つには、現存する最古級の天球図が描かれており、当時の科学的水準の高さを示しています。
- 文化的融合:これらの壁画は、イスラム以前の古典古代の芸術的伝統が、初期イスラム世界でどのように受容され、独自の芸術へと発展していったかを示す貴重な物証です。