概要
「ピーコ島のブドウ栽培の景観」は、大西洋に浮かぶポルトガル領アゾレス諸島のピーコ島に見られる、非常にユニークな文化的景観です。火山岩が広がる溶岩台地を、網の目のように広がる低い石垣で細かく区切り、その中でブドウを栽培するという独特の方法が、何世紀にもわたって受け継がれてきました。この景観は、厳しい自然環境に適応した人間の創造性を示すものとして、2004年に世界文化遺産に登録されました。
世界遺産登録基準
- (iii) 孤立した環境の中で、特定の社会経済的必要性から発展し、長い年月を経て洗練されてきたワイン生産の文化的伝統を証明する顕著な物証です。
- (v) 厳しい自然条件下で、人間の創意工夫によって持続可能な農業が営まれてきたことを示す、脆弱でありながらも優れた見本です。
独特なブドウ栽培法
ピーコ島のブドウ畑は、「クライス(currais)」と呼ばれる黒い火山岩を積み上げた石垣で小さな区画に仕切られています。この石垣は、大西洋から吹き付ける潮風や強風からブドウの木を守る役割を果たします。さらに、黒い溶岩は日中の太陽熱を吸収して夜間に放出し、土壌の温度を保つことでブドウの成熟を助けます。このシステムは、不毛に見える溶岩台地を豊かなブドウ畑へと変えた、人間の知恵の結晶です。
歴史と文化
ピーコ島でのブドウ栽培は、15世紀の入植開始直後から行われてきました。特に、この地で栽培されるヴェルデーリョ種から造られるワインは、かつてヨーロッパの王侯貴族やロシア皇帝にも愛飲された歴史を持ちます。ワイン生産は島の経済と文化の中心であり、クライスの景観は島民のアイデンティティと深く結びついています。