レッドベイのバスク人捕鯨基地とは
カナダ東部、ニューファンドランド・ラブラドール州の寒冷な沿岸に位置する、16世紀のバスク人による大規模な捕鯨基地の遺跡です。当時、鯨油は照明用燃料としてヨーロッパで非常に価値が高く、バスク人は大西洋を渡りこの地に拠点を築きました。当時の捕鯨産業の様子を伝える考古学的証拠が非常に良好な状態で残っていることが評価され、2013年に世界文化遺産に登録されました。
世界遺産としての価値
この遺産は、以下の2つの登録基準を満たしています。
- 登録基準(iii) 文化の証拠: 発掘された工房、住居跡、墓地などは、16世紀のヨーロッパの捕鯨文化と、新大陸での季節的な生活を具体的に示しています。特に、レンダリング(鯨油の精製)施設の遺構は、当時の産業規模を物語る貴重な証拠です。
- 登録基準(iv) 技術の段階を示す例: レッドベイの海底からは、当時の捕鯨船(チャルパ)や大型輸送船が複数、驚くほど良好な状態で発見されました。これらは、大航海時代の造船技術と組織的な捕鯨産業の技術を具体的に示す、世界的に見ても稀有な例です。
氷の海のタイムカプセル
レッドベイの遺跡の特筆すべき点は、陸上の遺構だけでなく、冷たい海水によって守られた水中の考古遺跡が豊富なことです。沈没した船の部材、樽、捕鯨道具などが発見されており、当時の人々の生活と技術を詳細に復元する手がかりとなっています。
周辺の主な動植物 | 説明 |
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セミクジラ、ホッキョククジラ | 16世紀の捕鯨の主な対象となったクジラ類。 |
ワモンアザラシ | 地域の沿岸に生息する海洋哺乳類。 |
ガンカモ類 | 沿岸部に飛来する海鳥。 |
コケモモ、ガンコウラン | ツンドラ気候に適応した低木や地衣類。 |
レッドベイは、ヨーロッパ人のアメリカ大陸進出の初期における、経済活動の一大拠点でした。その遺跡は、人間の欲望が、いかに遠い未開の地へと人々を駆り立てたかを物語る、歴史の重要な一ページを今に伝えています。