グローバル・ストラテジーとは

世界遺産のグローバル・ストラテジーとは

現在、世界遺産は世界中に存在しますが、過去は特定の地域に偏りがあって各国からの批判がありました。そういった背景の是正を目指し、1994年の世界遺産委員会で「グローバル・ストラテジー」が採択されました。

この記事では、グローバル・ストラテジーの意義や内容について解説します。

グローバル・ストラテジーとは

正式名称を「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表性、信用性の確保のためのグローバル・ストラテジー」と言います。1994年の第18回世界遺産委員会にて採択されました。

1978年に最初の12件の世界遺産が登録されて以降、世界遺産リストは年々拡大していましたが、登録されている文化遺産の内容が西欧の中世から19世紀にかけての宮殿や城塞、キリスト教関連の教会や修道院に偏っているという問題点がありました。また、世界遺産条約を締結していながら世界遺産を1件も持っていない国があるという地理的な不均衡が問題視されていました。

こういった事実から、世界遺産リストが正しく世界の文化・文明を代表していないのではないか、もっと言えばビジネス的な側面で決められているのではないかという批判に繋がりました。

そういった批判によって世界遺産リストの信頼性を損ねることのないよう、世界遺産リストの不均衡を是正して信頼性を取り戻すためにユネスコは様々な手段を駆使してグローバル・ストラテジーを推進しています。

グローバル・ストラテジーの内容

グローバル・ストラテジーと一口に言っても、その実行内容は多岐にわたります。特定の地域に偏りが生じないように、以下のような方針が立てられています。

地理的拡大

世界遺産を持たぬ国や地域からの登録を強化し、地理的な不均衡をなくす。国際的な協力体制のもとで暫定リストや登録推薦書の作成に力をいれることや、遺産の保護・保全に関わる専門機関の強化、世界遺産委員会での優先審議などの対策が挙げられます。

産業関係、鉱山関係、鉄道関係の強化

産業に関わる遺産はそれまで文化財とみなされていなかったり、今現在も稼働中で体系的な保護・保全活動が行われていないことが多いです。

現在は、産業遺産は積極的に保護するように求められています。

先史時代の遺跡群の強化

先史時代の遺跡はそれまで遺産価値を示す科学的証拠や法的な保全体制が不十分であったりして登録数が少ないという課題がありました。しかし、先史時代の遺跡は人類の歴史の最初期の貴重な証拠であり、時代的かつ地域的な不均衡を是正するものとして登録強化が求められています。

20世紀以降の文化遺産

20世紀以降の現代の建築物は時代検証を経ておらず、文化財として保護下におかれていないものが多くありました。世界遺産委員会では、現代の文化遺産でも顕著な普遍的価値が認められるものは、積極的に保護するように求めており、近年では建築や芸術の潮流を代表するような建築家の残した遺産が登録されています。

グローバル・ストラテジーに関連する決議

グローバル・ストラテジーを実現していくために、1994年の世界遺産委員会以降も様々な決議がなされています。世界遺産という制度の信頼性にも繋がるため、締約国それぞれがグローバル・ストラテジーの実現のために動いています。

第12回世界遺産条約締約国総会(1999年)

  1. すべての加盟国に、世界遺産条約の権威を高めるために、リストのバランス欠如を改善し、代表性を高めるように対応するように求める。
  2. すでに数多くの世界遺産を登録している締約国に、自発的に推薦を減らし、世界遺産登録が少ない国の推薦に協力するよう求める。
  3. まだ世界遺産の数が少ない締約国に、積極的に援助を求めて推薦するようにし、委員会に参加するよう求める。
  4. 諮問機関に、暫定リストや地域専門家会合の結果などを基に、テーマ別研究を実施するよう求める。
  5. 世界遺産委員会に、地域別グローバルストラテジー活動計画の採択、実施状況評価を求める。
  6. 条約事務局に、世界遺産の登録数が少ない国の暫定リストや推薦書作成に協力し、また、活動計画の実施状況報告をするよう求める。
  7. 国際社会、特にドナー機関に、指示、援助を求める。

第24回世界遺産委員会(2000年)

  1. 諮問機関は、現在の世界遺産リストと暫定リストを、地域、時代、地理的基準、テーマによって解析し、現状分析と代表性の低いテーマについて報告する。その際、地域ごとに自然や文化が多様であることに配慮し、定期保全報告の内容や地域別会合やテーマ別会合の提言も参考にする。
  2. 登録審査を厳密に行うために、新規推薦の審査数を年間 30 件以下に制限する。その方法として、1年に推薦できる件数を1カ国1件に制限するが、まだ世界遺産が1件もない国は 2〜3件の推薦ができる。それでも30件を越えた場合は、世界遺産が1件も登録されていない国、諮問機関の分析で代表性が低いと判断されたカテゴリーを優先する。さらに制限が必要な場合は推薦書の到着日が早い順とする。これらの方法は丸2年間試行し、評価する。
  3. 上記加盟国総会決議2の早期実施を求める。

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