2500年以上の歴史を誇る泥レンガの摩天楼
イエメンの首都サナアに位置する旧市街は、2500年以上の歴史を持つとされる世界で最も古い都市の一つです。イスラム教が伝わる以前から人々が暮らし、7世紀から8世紀にかけてはイスラム教布教の主要な中心地として繁栄しました。1986年にその独特な景観と歴史的価値が認められ、ユネスコの世界文化遺産に登録されました。
この街の最大の特徴は、赤茶色の焼成レンガと日干しレンガで建てられた「タワーハウス」と呼ばれる高層住居群です。数階建ての建物が密集して立ち並ぶ景観は、まるで「泥レンガの摩天楼」のようであり、窓枠には「タフリール」と呼ばれる白い漆喰の美しい装飾が施されています。
世界遺産登録とその基準
サナアの旧市街は、以下の3つの基準を満たしたことにより世界遺産に登録されました。
登録基準 (iv) 建築様式の顕著な見本
イスラム初期のヘジラ後、最初の数世紀から続く、政治的・宗教的遺産に影響を受けた独特な建築群の顕著な例として評価されています。特に、漆喰で装飾された多層階のタワーハウスは、伝統的な建築技術を今に伝える貴重な存在です。
登録基準 (v) 伝統的集落の顕著な見本
防御上の必要性から、周囲の自然景観に溶け込むように築かれた伝統的な人間居住の傑出した例です。しかし、近年の社会変化や開発により、その伝統的な景観が失われる危機に瀕している点も考慮されています。
登録基準 (vi) 歴史・宗教上の重要性
7世紀から8世紀にかけてイスラム教の布教に大きく貢献した歴史と直接的に結びついています。預言者ムハンマド自身が建設に関わったという伝説が残るサナアの大モスクをはじめ、100以上のモスクが現存し、イスラム世界の重要な精神的中心地としての役割を果たしてきました。
主な見どころ
旧市街には、その長い歴史を物語る数多くの歴史的建造物や場所が点在しています。
- サナアの大モスク(アル・ジャミア・アル・カビール): イスラム世界で最も古いモスクの一つとされ、預言者ムハンマドの存命中に建設が始まったと伝えられています。
- スーク・アル・ミル(塩の市場): 旧市街の中心に広がる広大なスーク(市場)で、香辛料や銀製品、ジャンビーア(イエメン男性が腰に差す短剣)などが売られ、今も市民の生活の中心地として賑わっています。
- タワーハウス(伝統的な高層家屋): 幾何学模様の漆喰装飾が美しい高層の家々。下層階は家畜小屋や倉庫、上層階が住居となっており、最上階の「マフラージ」は来客をもてなす特別な部屋です。
現状と課題:危機に瀕する遺産
サナアの旧市街は、長年にわたるイエメン内戦の甚大な影響を受けています。2015年には、武力紛争による破壊や損傷の危機に直面しているとして、ユネスコの「危機に瀕する世界遺産(危機遺産)リスト」に登録されました。空爆により、世界遺産地区内の貴重なタワーハウスや歴史的建造物が破壊されるなど、その価値は深刻な脅威にさらされています。かつては多くの観光客が訪れていましたが、現在では渡航が極めて困難な状況にあり、遺産の保護と修復が急務となっています。
基本情報
項目 | 内容 |
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所在地 | イエメン共和国 首都サナア |
登録年 | 1986年 |
危機遺産登録年 | 2015年 |
登録基準 | (iv), (v), (vi) |
公式サイト | UNESCO World Heritage Centre |