ザビードの歴史地区とは
ザビードの歴史地区は、イエメン西部の紅海沿岸ティハーマ平原に位置する古都です。その歴史は9世紀、ズィヤード朝の首都として建設されたことに始まります。1993年には、その独特な都市計画や建築様式が高く評価され、ユネスコの世界遺産に登録されました。
特に13世紀から15世紀にかけては、スンニ派イスラム世界における学問の中心地として繁栄し、多くの学者を輩出したザビード大学は非常に有名でした。現在も、煉瓦造りの伝統的な家屋やモスク、マドラサ(神学校)などが密集する街並みが残り、イスラム初期の都市の姿を伝えています。
世界遺産としての価値
登録基準
ザビードの歴史地区は、以下の登録基準を満たしたと評価されています。
- (ii) ザビードの軍事・居住建築や都市計画は、ある時期の建築技術や文化の発展を示す重要な証拠です。
- (iv) 13世紀から15世紀にかけてのティハーマ平原における民間および軍事建築の顕著な例であり、芸術的、考古学的に高い価値を持っています。
- (vi) イスラム暦初期におけるイスラム教布教の歴史と深く結びついています。預言者ムハンマドの仲間によって建てられた初期のモスクの遺跡がその証拠です。
文化的・建築的価値
ザビードの価値は、かつてイスラム世界の学術的中心地であったという文化的重要性、そして焼成煉瓦を用いた独特の建築様式の両面にあります。モスクやマドラサ、伝統的な家屋は、その設計や漆喰による装飾が高く評価されており、イスラム建築史において重要な位置を占めています。
主な歴史的建造物
地区内には80以上のモスクを含む、数多くの歴史的建造物が現存しています。
| 建造物名 | 説明 |
|---|---|
| アル=アシュアリー・モスク | イスラム教史上、最初期に建てられたモスクの一つとされ、精神的な中心地です。 |
| 大モスク | ザビードで最大級のモスクで、かつてのザビード大学の一部でした。 |
危機に瀕する遺産
輝かしい歴史を持つ一方で、ザビードの歴史地区は深刻な危機に直面しています。建物の老朽化や、近代的なコンクリート建築への建て替え、そして長引く内戦による管理体制の不備などが原因で、歴史的な街並みは急速に失われつつあります。この状況を憂慮したユネスコは、2000年にザビードを「危機にさらされている世界遺産(危機遺産)」リストに登録しました。
かつては多くの人々が訪れましたが、現在はイエメンの不安定な情勢により訪問は極めて困難です。国際社会による支援も行われていますが、遺産の保全は依然として厳しい状況にあります。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | イエメン共和国 フダイダ県 |
| 登録年 | 1993年 |
| 危機遺産登録年 | 2000年 |
| 登録基準 | (ii), (iv), (vi) |
参考文献: UNESCO World Heritage Centre – Historic Town of Zabid