世界遺産条約を締約した国は、自国内で将来的に世界遺産リストに記載しようとしている物件を「暫定リスト」としてユネスコに提出します。
世界遺産委員会に推薦書を提出して審査をするプロセスを踏むためには、暫定リストに記載されている必要があります。
暫定リストの問題点と世界遺産の意義について
世界遺産暫定リストに記載されることが世界遺産登録のための第一条件ということもあり、地方自治体がこぞって推薦するようになりました。
自治体としては、世界遺産というブランドを手に入れることによって貴重な観光資源を獲得することにつながるため、登録が目的となってしまうことに繋がりかねないのです。
世界遺産の意義は、その貴重な自然・文化遺産を後世に向けて保護・継承していくことにあります。その中で観光という側面も存在しますが、メインではありません。
こうした本来の意義を見つめなおすという意味もあり、現在日本では文化遺産の公募制度を辞め、文化審議会が中心となって候補を検討する動きが出てきています。
一方で、世界遺産に登録されたあとにその遺産を守り、受け継いでいくのはその地域で生活する人々です。そのため、自治体や国民に対しての意識調査も行い、バランスを取りながら暫定リストを作成していく必要があります。
日本の世界遺産暫定リスト(2022年)
2022年7月現在、日本の世界遺産暫定リストには文化遺産が5件登録されています。
- 古都鎌倉の神社・寺院ほか
- 彦根城
- 飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群
- 平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―(拡大登録)
トランスバウンダリー・サイトの提案事例
日本の暫定リストには含まれていませんが、外国からトランスバウンダリー・サイトの共同提案の打診がされている事例もあります。
生物系統学の揺籃地(スウェーデン)
2009年、8か国13資産から成る「生物系統学の揺籃地」についてスウェーデンが暫定リスト記載を計画し、先行してスウェーデン国内の6資産を暫定リストに記載しています。国外の資産には、植物学者カール・ツンベルクゆかりの日本の長崎県出島と神奈川県箱根町が含まれています。
フランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群(アメリカ)
2019年の第43回世界遺産委員会において登録された世界遺産で、将来の拡張登録候補としてアメリカ国外唯一の推薦資産に旧山邑家住宅(現ヨドコウ迎賓館)を挙げています。