世界遺産条約とは

この記事では、世界遺産条約の目的や概要について解説します。

世界遺産条約とは

世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)は、1972年の第17回ユネスコ総会(議長:萩原徹)にて採択された国際条約です。

翌年の1973年にアメリカ合衆国が最初に世界遺産条約を批准し、締約国数が20カ国に達した1975年12月17日に発行されました。

2022年5月現在、193の国と地域が世界遺産条約に加盟しています。

日本が世界遺産条約を受諾したのは1992年6月30日です。

世界遺産条約の目的

世界遺産条約は、世界遺産リストに登録された文化遺産自然遺産を人類共通の遺産として破壊や損傷から保護・保全し、将来の世代に伝えていくための国際的な協力体制の確立を目的としています。

世界遺産条約の構成と概要

世界遺産条約は8章と38条からなります。

第1章文化遺産及び自然遺産の定義第1〜3条
第2章文化遺産及び自然遺産の国内的及び国際的保護第4〜7条
第3章世界の文化遺産及び自然遺産の保護のための政府間委員会第8〜14条
第4章世界の文化遺産及び自然遺産の保護のための基金第15〜18条
第5章国際的援助の条件及び態様第19〜26条
第6章教育事業計画第27〜28条
第7章報告第29条
第8章最終条項第30〜38条

世界遺産条約のポイント

世界遺産条約は世界遺産を国際的な協力体制で保護していくことを明記している国際条約ですが、3つの重要なポイントがあります。

  1. 文化遺産と自然遺産を1つの条約で保護しようとしている
  2. 世界遺産の保護・保全の第一義的な義務と責任は締約国にあることを明記している
  3. 教育・広報活動の重要性を明記している

それぞれについて解説します。

文化遺産と自然遺産を1つの条約で保護しようとしている

文化遺産と自然遺産はそれまで別の枠組みで保護しようという動きがありました。

世界遺産条約では、文化遺産と自然遺産は互いに切り離すことのできない人類共通の財産として位置付けています。

こういった考え方がなければ、複合遺産という概念も生まれていなかったかもしれません。

世界遺産の保護・保全の第一義的な義務と責任は締約国にあることを明記している

世界遺産は「人類共通の財産」ですが、それを保護・保全して後世に伝えていく義務や責任はその文化や文明にあるということを明記しています。つまり、世界遺産に登録されたからといってあとは全てユネスコが守ってくれるというわけではないということです。

しかしながら、世界遺産条約の締約国は国際社会全体の義務として遺産の保護・保全に協力すべきであるとも書かれています。特定の文化や文明に属するものであることは尊重しつつ、多様性ある世界遺産を人類全体で守っていくことが平和への希求にもつながるというメッセージとも言えるでしょう。

教育・広報活動の重要性を明記している

人々が遺産の価値を知ることが遺産の保護・保全の観点でも非常に重要とされています。

世界遺産を「ただそこにあるもの」とするのではなく、社会生活の中で機能し、人々の生活に貢献する役割を与えるべきであるという記述もあることから、自分達の社会の中で守り、受け継いでいくものという意識が求められています。

一時の戦争や紛争で破壊していいものではない、歴史と大きな意味を持つものとして大切に扱っていくための教育は締約国の使命です。

世界遺産条約の問題点

世界遺産という枠組み、取り組みは素晴らしいものだと思いますが、一方で課題も多くなってきています。

登録過多による世界遺産というブランドの希薄化

世界遺産は2022年5月現在、1154件あります。この数を多いとみるか少ないと見るかはそれぞれですが、登録数が増えていくことは世界遺産という枠組みの価値を低下させます。

その一端となっている近年の問題は、IUCNICOMOSが登録延期と判断した物件が世界遺産委員会ではそのまま登録されることが多くなっていることです。登録までのフローが正常に機能しておらず、形式的な調査になってしまっていることが伺えます。

保護・保全よりも観光資源としての活用に利用されている

世界遺産は保護・保全が主目的ですが、近年ではそれが観光資源のお墨付きのように扱われてしまっていることも多いです。

もっとも、観光資源として大切に扱いながらその存在意義を後世に伝えていくことは良いことですが、現実は観光客が押し寄せることで世界遺産が傷付けられたり、現地に住む人々の生活環境が変わってしまっているという問題もあります。こういった問題点を解消していくことが現在求められています。

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