世界遺産とは?目的や歴史について

世界遺産とは

世界遺産とは、UNESCO総会で採択された世界遺産条約に基づき世界遺産リストに記載されている顕著な普遍的価値を有する自然や生態系保存地域、記念建造物、遺跡を指します。

世界遺産リストに登録された遺産は、遺産保有国を中心に国際的な協力と援助のもとで保護・保全が行われます。

目的

世界中に存在する普遍的価値のある自然や建造物を保護することが、世界遺産というプロジェクトの目的です。それは単に美しいから、珍しいから保護するというものではありません。その本質は、地球の多様性を理解し、後世に伝えていくことにあります。私たちは、世界遺産として様々な自然や文化を受け継ぎ、それを伝えていく一人なのです。

歴史

世界遺産の歴史は1950年代までさかのぼります。

1952年に、エジプトでアスワン・ハイ・ダムの建設計画が決定しました。

これは、周辺地域の人々の生活を安全に、安定したものとするためのものです。ナイル川の氾濫を抑制し、農業用水を確保することで、安定した住環境、食料供給、電力供給を得られるために建設が決まりました。

しかし、このダムを建設する際にある問題が発生します。

ダムの建設によって、ヌビア地方にある「アブ・シンベル神殿」や「フィラエのイシス神殿」などが水没してしまうことが分かったのです。

人々の生活を守るため、ダムの建設を止めることはできません。でも、古代エジプト文明の遺跡が水没してしまうことは何とかして防ぎたい。

この状況を受けて、1960年にUNESCOがヌビアの遺跡救済を目的とした募金活動を開始します。エジプト文明の普遍的価値は多くの国が認めており、その保護のためならと各国から寄付金が集まりました。

そして、その寄付金を使ってヌビアのアブ・シンベル神殿は大規模な移築工事を行います。ダムの建設は中止せず、遺跡を別の場所に移すことでその普遍的価値を守ったのです。

この経験は、エジプトの人々の生活を安定させたというだけの話には収まりませんでした。約50か国の国、そして国境を越えて多くの民間団体、個人が協力して「価値ある遺産を保護した」という事実は、人類にとって大切にすべき共通の遺産を国際社会の協力によって守り抜くという理念へと繋がり、それが「世界遺産」というプロジェクトへと進化していったのです。

最初に登録された世界遺産

世界遺産条約が1972年にUNESCO総会で採択され、その後の1978年に初めて世界遺産に登録された12件をご紹介します。

日本は何も入っていないのかと思うかもしれませんが、これには事情があります。

そもそも世界遺産は世界遺産条約に批准しなければ審査も登録もされません。世界遺産というプロジェクトが始まった1978年には日本はまだ批准しておらず、1992年にようやく加盟したため、それまでの期間は日本から世界遺産は誕生しなかったのです。

世界遺産条約批准後の1993年、日本から以下の4つが世界遺産に登録されました。

世界遺産の種類

世界遺産は大きく「文化遺産」「自然遺産」「複合遺産」に分けられます。

いずれも有形の不動産が対象となっています。つまり、精神や風習といったものは世界遺産にはなりません。もっとも、そういった精神や風習が生まれる要因となった自然や風景は「文化的景観」として世界遺産に登録されることもあります。

文化遺産

顕著な普遍的価値を有する記念物や建造物群、遺跡、墳墓、文化的景観などです。

代表的な文化遺産は下記です。

自然遺産

顕著な普遍的価値を有する地形や地質、生態系、絶滅のおそれのある動植物の生息・生育地などです。

代表的な自然遺産は下記です。

複合遺産

文化遺産と自然遺産の両方の価値を兼ね備えているものを指します。

代表的な複合遺産は下記です。

世界遺産の登録基準

世界遺産には全部で10個の登録基準が設けられており、このうち1つでも満たしていれば世界遺産として登録されます。

(i)人類の創造的資質を示す傑作。

(ii)建築や技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展において、ある期間または世界の文化圏内での重要な価値観の交流を示すもの。

(iii)現存する、あるいは消滅した文化的伝統または文明に関する独特な証拠を伝えるもの。

(iv)人類の歴史上において代表的な段階を示す、建築様式、建築技術または科学技術の総合体、もしくは景観の顕著な見本。

(v)ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落や土地・海上利用の顕著な見本。または、取り返しのつかない変化の影響により危機にさらされている、人類と環境との交流を示す顕著な見本。

(vi)顕著な普遍的価値を持つ出来事もしくは生きた伝統、または思想、信仰、芸術的・文学的所産と、直接または実質的関連のあるもの。(この基準は、他の基準とあわせて用いられることが望ましい。)

(vii)ひときわ優れた自然美や美的重要性をもつ、類まれな自然現象や地域。

(viii)生命の進化の記録や地形形成における重要な地質学的過程、または地形学的・自然地理学的特長を含む、地球の歴史の主要段階を示す顕著な見本。

(ix)陸上や淡水域、沿岸、海洋の生態系、また動植物群集の進化、発展において重要な、現在進行中の生態学的・生物学的過程を代表する顕著な見本。

(x)絶滅の恐れのある、学術上・保全上顕著な普遍的価値を持つ野生種の生息域を含む、生物多様性の保全のために最も重要かつ代表的な自然生息域。

登録基準の詳細については、「世界遺産の登録基準について」をご覧ください。

世界遺産の登録の流れ

世界遺産は登録に非常に多くの手続きや調査を要します。

これは、世界遺産に登録されることで各国がお金を出しあって実施する様々な保全活動の対象となるからです。世界遺産にしたいからといって、すぐに登録できるわけでもなければ審査の上登録されないこともあります。

登録までの流れを簡単にまとめると、下記のようなステップで進みます。

  1. 世界遺産条約の締結・批准
  2. 世界遺産暫定リストの作成・UNESCOに提出
  3. UNESCOによる調査
  4. 世界遺産委員会での登録審査
  5. 世界遺産登録

世界遺産登録の流れについての詳細はこちらをご覧ください。

世界遺産に登録されるメリット

主に以下の3つのメリットがあると考えられます。

  • 世界的な視点で保護されるため、容易に破壊されない
  • それまで知られていなかった地域や文化に注目が集まる
  • 観光客が増加し、地域経済の活性化に繋がる

世界遺産はUNESCOの看板プロジェクトとなっており、遺産の保護・保全目的よりも観光資源としてのお墨付きのような存在になっています。

それゆえ、世界遺産に登録されると世界中から観光客が訪れるようになり、地域経済の活性化に繋がっていくのです。

発展途上の国において世界遺産の経済効果は非常に大きく、登録されるかされないかで観光資源としての価値が大きく変わります。

世界遺産に登録されるデメリット

メリットがある一方、デメリットも考えられます。

  • 観光資源化した結果、保全すべき遺産が傷つけられる
  • それまで遺産を守ってきた現地の人に還元されない

良くも悪くも、世界遺産に登録されると大きな注目を集めます。それが観光資源として地域経済を支える一方で、本来保全すべき遺産が踏み荒らされてしまったり、現地の人の生活に悪影響を及ぼしてしまうこともあります。

例えば世界遺産に登録されて観光客が増えたことにより、街にゴミが増えてしまう、みんながスーツケースを転がすために石畳が傷んでしまうなどです。

観光客からすれば、その街は人生の中で一瞬しか過ごしません。ですが、その街でゆっくりと暮らしている方への配慮も必要になるのです。

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