文化的景観という概念は、1992年の第16回世界遺産委員会で採択された概念です。
世界遺産条約第1章第1条の「遺跡」の項目には、「自然と人間の共同作品」という定義があります。文化的景観は、その概念を示しているのです。
人間社会がさまざまな自然的制約の中で社会的、経済的、文化的に進化してきたことを示す遺産に認められます。
富士山と文化的景観
日本人にとって代表的な文化的景観の一つに富士山があります。
富士山は自然遺産だと思っている方も多いですが、文化遺産として登録されています。
富士山の世界遺産登録名は、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」となっています。
自然の美しさはもちろん、その美しさや神々しさに影響を受けてさまざまな信仰、芸術が生み出されていることに大きな世界的意義があるのです。
つまり私たち日本人は、富士山の自然美を保つだけではなく、その文化的価値も損ねないようにしなくてはいけないのです。
文化的景観の3つのカテゴリー
文化的景観は大きく「意匠された景観」「有機的に進化する景観」「関連する景観」3つのカテゴリーに分類されます。
意匠された景観
庭園や公園、宗教的空間など、人間によって意図的に設計され創造された景観を指します。
有機的に進化する景観
社会や経済、政治、宗教などの要求によって生まれ、自然環境に対応して形成された景観を指します。農林水産業など産業と関連していることがあります。
すでに発展過程が終了している「残存する景観」と、現在も伝統的な社会のなかで進化する「継続する景観」に分けられます。
関連する景観
自然の要素がその地の民族に大きな影響を与え、宗教的、芸術的、文学的な要素と強く関連する景観を指します。
文化的景観の概念により複合遺産となったトンガリロ国立公園
ニュージーランドの「トンガリロ国立公園」は、1990年に自然遺産として登録されていましたが、1993年の世界遺産委員会で先住民族のマオリ族の聖地として文化的つながりが評価され、世界で最初の文化的景観として文化遺産の価値が認められ、複合遺産となりました。
文化庁による「文化的景観」の定義
世界遺産における文化的景観の定義は上述したとおりですが、実は文化庁も文化財保護法で文化的景観を下記のように定義しています。
地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの
文化財保護法第二条第1項第五号より
文化的景観は人々の生活に密接に関わっているため、その価値に気づかないこともあります。文化的景観を保護する制度を設けることによって、文化的価値を正しく理解して継承していくことが可能です。