世界遺産の真正性(authenticity)とは

世界遺産の真正性とは

世界遺産の「真正性(authenticity)」とは、文化遺産に求められる概念です。

建造物や景観等がそれぞれの文化的背景の独自性や伝統を継承していることが求められます。

真正性が重視されているのは、ヴェネツィア憲章の考え方を反映しているからです。ヴェネツィア憲章では、歴史的建造物の保存と修復に関して記されています。

真正性の考え方の変化

真正性はかつて、遺産が建造された当時の状態がそのまま維持・保存されていることが重視されるものでした。しかし、これは西洋の建造物は石で作られているため、基本的に時代を経ても大きな変化は起こりにくいために浸透した考え方です。

世界遺産が世界中に広まってくると、日本やアフリカのような木や土の文化圏では当時の状態を維持・保存することは非常に難しいことが問題になりました。このことから、真正性の概念をより柔軟なものに変更するために1994年に奈良で「真正性に関する奈良会議」が開催され、日本が主導して「奈良文書」が採択されました。

奈良文書の内容

奈良文書では、遺産の保存は地理や気候、環境等の自然条件と、文化・歴史的背景などとの関係の中ですべきであるとされました。

日本の遺産であれば、日本の気候風土や文化・歴史の中で営まれてきた保存技術や修復方法でのみ真正性が担保されるという考え方です。

その文化ごとの真正性が保証されるならば、遺産の解体修復や再建も可能になります。日本でいえば宮大工が古来から受け継いだ方法で修復するのであれば可能、といった具合です。

ワルシャワの歴史地区と真正性

ワルシャワの歴史地区は、真正性の考え方に大きな影響を与えた世界文化遺産です。

1944年、第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けたワルシャワは、市民たちが旧市街の街並みを昔の姿のままに再建することを決意し、「レンガの割れ目一つに至るまで」忠実に再現したのです。

破壊される前の街の様子は、建築科の学生を中心にして戦前や戦時中の危険を顧みずに細部までスケッチを残しており、街の再建のために準備を進めていたのです。

こうした市民たちの街への想いが実を結び、戦前と全く同じワルシャワの旧市街を蘇らせることに成功したのです。

そして、1980年にユネスコは街自体の歴史的価値ではなく「市民の不屈の熱意」を評価し、ワルシャワを世界遺産に登録したのです。

こういった経緯で登録されたワルシャワは、それまでの真正性の考え方に大きな波紋をよびました。結果的に、都市全体を再建・復旧した遺産を登録するのはワルシャワ以外には認められていません。

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