聖書時代のテル：古代都市が眠る人工の丘
「聖書時代の遺丘群-メギッド、ハツォール、ベエル・シェバ」は、イスラエルに位置し、2005年にユネスコの世界文化遺産に登録された考古遺跡群です。これらの遺跡は、旧約聖書に記された古代イスラエル王国の重要な都市の跡であり、テル（Tel）と呼ばれる特徴的な地形をなしています。「テル」とは、人々が同じ場所に都市を築き、破壊と再建を繰り返す過程で、建物の残骸が積み重なってできた人工の丘のことを指します。何層にもわたる時代の地層からは、数千年にわたる歴史の変遷を読み取ることができます。
3つの構成資産とその特徴
この世界遺産は、それぞれ異なる地理的条件に位置し、独自の発展を遂げた3つのテルで構成されています。
メギッド（Megiddo）
北部のイズレエル平野を見下ろす戦略的要衝に位置するメギッドは、古代より交通と軍事の要衝でした。3000年以上にわたり、少なくとも25の都市が重なっている多層構造の遺跡として知られています。旧約聖書ではソロモン王が要塞化した都市の一つとされ、堅固な城門や厩舎跡が発掘されています。また、新約聖書の「ヨハネの黙示録」に登場する最終戦争の地「ハルマゲドン」の語源（ヘブライ語で「メギドの丘」を意味する「ハル・メギド」）としても有名です。
ハツォール（Hazor）
ガリラヤ湖の北に位置するハツォールは、構成資産の中で最大規模を誇るテルです。青銅器時代にはカナン人の強力な都市国家の中心地であり、その広大な遺跡は上町と下町に分かれています。旧約聖書では、イスラエルの指導者ヨシュアによって征服され、破壊されたと記されており、発掘調査ではその記述を裏付けるような焼失の跡が見つかっています。
ベエル・シェバ（Beer Sheba）
南部のネゲヴ砂漠の北端に位置するベエル・シェバは、周到に計画された都市設計と、砂漠地帯で生き抜くための精巧な水利システムで知られています。アブラハムやイサクといった族長たちにゆかりの深い場所とされ、「契約の井戸」を意味するその名は聖書に頻繁に登場します。碁盤の目状に整備された街路、住居跡、そして巨大な地下貯水槽は、当時の高度な土木技術と共同体生活を物語っています。
世界遺産としての価値
旧約聖書の世界を物語る物証
これらの遺跡群は、旧約聖書に描かれた出来事や社会の歴史的背景を物理的に証明する、類まれな証拠として極めて高い価値を持ちます（登録基準 vi）。聖書の記述と考古学的発見が結びつくことで、古代イスラエルの歴史や文化、信仰への理解が深まります。
古代の都市計画と水利技術の傑作
3つのテルは、鉄器時代の都市計画や防衛システムの発展段階を示す優れた見本です（登録基準 iv）。特に、メギッドの巧妙な城門や、ベエル・シェバの生命線であった大規模な水利システムは、厳しい環境に適応し、高度な社会を築いた古代の人々の知恵と技術力の結晶と言えます。
基本情報
| 遺跡名 | 主な特徴 |
|---|---|
| メギッド | 多層構造の遺跡、ソロモン王時代の城門、「ハルマゲドン」の舞台 |
| ハツォール | イスラエル最大級のテル、カナン人の強力な都市国家跡 |
| ベエル・シェバ | 計画的な都市設計、砂漠に適応した精巧な水利システム |
遺跡の保全と訪問
今日、これらの遺跡は国立公園として保護・管理されており、世界中から多くの観光客や巡礼者が訪れます。訪問者は、整備された遊歩道を歩きながら発掘現場を見学し、数千年の歴史に思いを馳せることができます。遺跡の価値を未来の世代に引き継ぐため、継続的な発掘調査と並行して、持続可能な観光と保存活動が進められています。
